「助言すること」を嫌がる人は少ないと思います。
一方、多くの人は「求めてもいない助言を聞かされること」を嫌がります。
このコラムは、どのように助言したら、児童生徒・保護者に嫌がられず受け容れてもらえるか、そんなお悩みにお応えします。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 教育現場の助言
上手くいったとき
児童生徒が助言を受け容れ、行動変容や成長につながった・・・など
助言が上手くいったこれまでの経験を、思い出してください。
そのときの助言は、どうして上手くいったのでしょうか。
例えば
- 先生のかかわりによって、信頼関係が築けており、児童生徒が素直に助言を聞いてくれた。
- 児童生徒から助言を求められ、先生は児童生徒の状態を理解できていたので、会心の助言を伝えられた。
- どうにかしなければと思い、気持ちを込めて伝えたら、児童生徒は感動して泣いてくれた。
これらのように、技術ではなく在り方として上手くできている先生は、何よりもまず、その在り方を続けていただけたらと思います。
一方で・・・
伝え方が難しいとき
次のような状況は、伝え方が難しいようです。
- 児童生徒が、頑なに自分の考えを変えようとせず、説得されることを嫌がっている。
- 児童生徒が、このことについて困っていない。自分ごととして考えていない。
- 生活習慣(例:スマホの使い方)、対人関係(例:級友への態度)、悩みごと(例:不安が強い)など、先生と児童生徒の「教える・教えられるの関係」が薄いテーマ。
他にも、相手が保護者である場合は、伝え方に迷うことが多いかもしれません。
そのようなときは、次の「助言するときの作法」を試してもらえたらと思います。
2 助言するときの作法
(作法の前に)まず話を聴く
話を聴いて理解してくれたという土台があれば、助言は受け容れられやすくなります。
伝えるタイミングは、すぐに解決策を与えたいという「間違い指摘反射」をしないよう、ご用心してください。
間違い指摘反射については、こちら
↓ ↓ ↓
それでは、作法に入ります。
コミュニケーションの基本として「自分が何を言ったか」よりも「相手にどう伝わったか」が大切です。
そのため、相手の状態に配慮する必要があり、ただ助言を言って終わるのではなく、
前後を含めた手続き(作法・マナー)が重要となります。
(1)許可を得る
助言する前に、助言してよいか質問し、許可を得ます。
ちょっと、私の提案を聞いてもらえますか?
少し、〇〇について知っていることを話していいですか?
児童生徒は、多くの場合「はい」と答えてくれるでしょう。
このやりとりによって、求めていない助言をしてしまうリスクを下げることができます。
また、児童生徒は「はい」と答えたことによって、聞く前の心の準備ができます。
(2)引き出す
助言する前に、児童生徒が理解していることを聞きます。
どうして〇〇する人が多いと思いますか?
今まで〇〇について、どんなことを聞いたことがありますか?
児童生徒に適した助言を言うために、必要な情報です。
助言しても「あー、それは知っています」と返されて、助言→却下、助言→却下の悪循環にハマる可能性を下げます。
また、児童生徒がこの後、興味を持って主体的に助言を聞く可能性を高めます(授業と同じですね)。
(3)助言を短く伝える
助言は、短いことが重要です。
長々と話してしまうと、説得になってしまい、児童生徒の抵抗(変わりたくない気持ち)を高めます。
小出しにして伝え、児童生徒の反応を確認しながら、やりとりします。
言いたいことをすべて話さず、言い残したことがあるぐらいがちょうど良いという感覚です。
当然のことですが、上から言う態度ではなく、あくまで選択肢を増やすための提案を基本とします。
(4)感想を聞く
助言のあとには、必ず感想を聞きます。
(助言を)聞いてみて、どんなふうに思いますか?
今の内容で、何か使えそうなものはありましたか?
児童生徒が、どう考えたか、どんな感情になったか、それが重要です。
児童生徒の感想に合わせて、追加の助言を伝えたりします。
このときも、「間違い指摘反射」しないように用心してください。
イメージとしては、児童生徒の意思決定を、先生が補助していく感覚。
デパートの接客が理想です。
「2 引き出す」「4 感想を聞く」で助言を挟み、いつも児童生徒から始めて、児童生徒で終わるようにします。
この作法を守ることで、児童生徒を中心としたやりとりになり、一方的に言われる印象がほぼ無くなると思います。
(5)自律性を尊重する
最後に、全体をとおしての共通ポイント
児童生徒が自分で考えて、自分で決めることを尊重する言葉を入れます。
〇〇さんが決めることですが、他の人がどうやったのか参考に聞いてみますか?
もし自分でもやってみようかなと思うのなら、こんなやり方もありますよ
つまり、児童生徒に対して、先生からの助言を無視する許可を与えることになります。
わざわざ言わなくても、児童生徒にはその権利があります。
この権利を認める言葉を掛けることによって、逆説的な効果があり、
児童生徒は先生の言葉に耳を傾け、注意を払う可能性が高まると考えられます。
自己決定の場の提供
文部科学省「生徒指導提要」では、生徒指導の実践上の視点として、(1)自己存在感の感受、(2)共感的な人間関係の育成、(3)自己決定の場の提供、(4)安全・安心な風土の醸成 の4つを挙げています。
助言する際に、本人が自己決定するという在り方を、言葉にしてやりとりすることは、まさに「(3)自己決定の場の提供」に当たります。
これは、心理臨床の分野では基本的な考え方となっており、安全・安心な場を作る上で欠かせません。
言われたからするのではなく、自分で決めたらからするになることが、主体性・自律性につながり、人の成長に結びつきます。
まとめ
- 思いやる気持ちや信頼関係などによって、助言が上手くいっている場合は多くある。
一方、児童生徒の状態によっては、助言が受け入れられづらい場合もある。 - 助言するときの作法は、助言してよいか許可を得て、本人の考えを引き出し、助言を短く伝え、本人の感想を聞くこと。
- 児童生徒の自律性を尊重することが「この先生は信頼できる」に結びつき、助言の効果を高めると考えられる。
最後に、参考として対応例を示します。
家庭学習なんて必要ない!
必要ないと思っているんだね
学校の授業を受けていたら、理解できるし
授業で、良い発言しているもんね
〜 話を聴きつづけ、生徒(Bさん)の話を理解する 〜
ちなみに、勉強ができる人も、家庭で学習しているんだけど、それには理由があるんだよ
どうするかは、Bさんが決めることだけど、参考に聞いてみる?(自律性を尊重する、許可を得る)
ちょっとだけ
Bさんは、家庭学習って何のためにするって聞いた?(引き出す)
苦手な教科や、授業で分からないところがあるから・・・
そうだよね。
ただ、授業を理解できていても、家庭学習する意味があるんだよ。
いくつかあるんだけど・・・。授業のあと、時間が経ったら、忘れちゃったってことはない?(引き出す)
・・・あります、テスト前に復習しています
復習しているんだね。
日常的に家庭学習すると、記憶に残って、忘れにくくなるんだよ。だから、勉強できる人は、普段、家庭学習して効率的に記憶して、テスト前は少し楽をしているんだ(助言を短く伝える)
どう思う?(感想を聞く)
やる意味はあるんですね。
でも、面倒くさいから、結局、テスト前になっちゃうんですよね
うん。Bさんが、自分にとって、どっちが良いか決めることだけど、勉強できる人がやっていることだから、試してみるのもありかもね(自律性を尊重する、助言を短く伝える)
なるほど
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!