話を聞いていて、よく「分かります」「あー、分かる、分かる」「分かる~!」って言葉を返すこと、ありますよね。
心理士は、言わないんです。
しかも、結構分かっているのに「分かります」と言わない。不思議ですよね・・・。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 理解してほしい人と理解したい人
人は悩んだとき「気持ちを理解してほしい」と願い、自分の思いを話すのだろうと思います。
クライエント(理解してほしい人)
他者から自分を理解してもらえることが、どれだけ大きな心の支えとなるか、
それを上手く表現した言葉があります。
馬は伯楽(はくらく)に会ひていななき 人は知己(ちき)に逢ひて死す
伯楽(はくらく)は、馬の鑑定名人です。
伯楽は良い馬を探し出すので、馬からしてみたら、伯楽に出会えたらとても嬉しくて、いななくわけです。
知己(ちき)は、自分のことをよく理解してくれる人です。
死すといっても、本当に死ぬのではなく、【死ぬほど嬉しい】という意味です。
つまり、【人は、本当に自分を理解してくれる人に出会うことができれば、死んでも惜しくないと思うほど嬉しいものである】という意味です。
カウンセラー(理解したい人)
ざっくり言ってしまえば、カウンセラーは話を聴く(ことを中心としている)仕事です。
それは一般的に知られているところですが、多くの人が知らないことが「聴く」の中身です。
心理士にとっての「聴く」は、とても能動的な行為です。
言語・非言語で表現されたものに感覚をフル動員し、頭の中でいくつもの仮説を作っては修正し、
自分自身のたたずまいも観察しながら、相互性(クライエントとのやりとり)をもって、
点が線、線が面になり、映像が見えるように耳を傾けていきます。
それは心理士になる過程の専門的な訓練を受けた後も、生涯をかけて磨いていく態度・技術です。
この「聴く」をとおして、カウンセラーはクライエントを理解していきます。
2 なぜ「分かります」と言わないの?
分かってほしい人(クライエント)と分かりたい人(カウンセラー)が出会って、
カウンセラーは(秘技のような)「聴く」でクライエントを理解しているのに「分かります」と言わない。
なぜか?
(1)本当の意味で「分かる」なんてことは無いから
心理士の感覚では、「言わない」ではなく「言えない」が近いかもしれません。
というは、人は複雑で分からないことだらけだからです。
例え、かなりの部分まで理解しても、
語られた言葉は、クライエントが必死に整理して出した断片的なものです。
その人の実体験や、心の奥底に沈んだままの抽象的な思いは、分からないままです。
「クライエントにとっての世界」に、どれだけ近づいても、
別の人間である以上、本当の意味で理解するのは、無理なのかもしれません。
あなたが感じているのと同じように感じることはできないけど、
想像してみることはできるので、
話を聴かせてもらってよろしいですか。
「クライエントが感じているのと同じように感じることはできない」が大前提となっています。
だから、分からないことを教えてもらう態度と、
カウンセラーの理解を「これで合っていますか?」と確認するやりとりによって、
できるだけ理解しようと努力するのが、心理士の在り方です。
それは、人に対する深い敬意とも考えられます。
(2)分かったと思った時点で「聴く」をやめるから
分からないから、集中と努力をもって話を聴きます。
そのため「分かった」「理解できた」と思った時点で、その集中と努力は低下します。
これは人の話に限ったことではなく、例えば
本を読んでいる途中で「大体の書いてあることは分かった」と思ったら、続きは流し読みしたり
ラーメンを食べている途中で「この店はこういう味ね」と思ったら、あとは別のことを考えながら、口に麵を運んだり
分かったと思った時点で、興味・関心は低下していくのではないかと思います。
そのため心理士は、意図的に無知で在り続けようとします。
これは「無知のスタンス」「無知の知」などと呼ばれ、
無知だから・・・質問したり、想像したり、もっと話を聴きたいと思う状態が続き、積極的な聴き手で在り続けられるとされています。
(3)「私の気持ちが分かるわけないでしょ!」となるから
最後は、言われた方のクライエントの気持ちです。
カウンセラーから「分かります」「理解しました」と言われたら、
上から目線で言われているように感じたり、
決めつけられたように感じたり、
軽く扱われたように感じたりして、
「私の気持ちが分かるわけないでしょ!」と(心の中、または現実に)言い返したくなるものです。
自分の気持ちを分かってほしいけど、「分かります」と言われたら不信感を持つ。
複雑なようですが、とてもシンプルです。
クライエントも、分かっていない人ほど、「分かります」と簡単に言うと知っているのではないでしょうか。
だから、心理士はこちらから「分かります」とは言わず、クライエントから「分かってもらえた」と思う対応をとります。
その具体的な内容は、今後のコラムに続きます。
3 学校の先生も「無知のスタンス」
3つの具体例から、問題と改善策を紹介します。
学校での具体例1
先生、また部活動でトラブルがあったんだよ〜
また、真面目に練習しない人がいたんだろう
(決めつけ:これまでを知っているため予想を言った)
今回は、違うよ
無知のスタンスで、話を聴く対応だったら
今回は何があったの?
(興味を持って質問する)
Aさんにとって、「よくぞ訊いてくれました!」という質問です。
学校での具体例2
リストカットするといいって・・・友だちから聞いて・・・
自分もやってしまった。
(話の内容を予想した先取り)
それはそうなんだけど、なんか、決めつけられた感じがする
どうして最後まで聞いてくれないの
無知のスタンスで、話を聴く対応だったら
うん・・・聞いて・・・(言葉を繰り返し、つづきの語りを促す)
Bさんにとって、「自分の話す内容に集中してくれている」対応です。
学校での具体例3
いつも親に反対されて・・・
時々、布団の中で泣いているんです
とても苦しいんだね。分かるよ。
(先生の体験や知識から理解したと思っている)
私の気持ちが分かるわけないでしょ!
無知のスタンスで、話を聴く対応だったら
それぐらい苦しい気持ちなんだね。
(先生の理解を伝えて、確認している)
Cさんにとって、「話した内容が伝わっているか確認できる」対応です。
まとめ
- 心理士は「クライエントが感じているのと同じように感じることはできない」を大前提としている
だから、積極的に話を聴いて、できるだけ理解しようと努力している - 「無知のスタンス」を取ることで、質問したり、想像したり、もっと話を聴きたいという状態が続く
- クライエントも、分かっていない人ほど「分かります」と簡単に言うことを知っている
- 学校の先生も「無知のスタンス」を取ることで、児童生徒の話を上手く聴くことができるようになる
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!