教育職員の精神疾患による休職者数は、R4年度、過去最多でした(文部科学省)。
学校の先生って、本当に大変な仕事です。
荒野で生き抜くためには、サバイバルの知識・技術が必要なように、
深刻な職場環境で生き抜くためには、セルフケアの知識・技術が必要だと思います。
このコラムを読むと、ご自身のセルフケアに、新たな視点とスキルを追加することができます。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 イメージで実験
ちょっとした実験です。
2つの問いにお答えください。
(問1)ある生徒が、色々と
うまくいかず、落ち込んでいます
あなたはこの生徒に
どのような言葉を掛けますか?
どのような態度で接しますか?
・・・
「何があったの?」「よかったら、話を聞くよ」と、否定せずに聞こうとする。 いいですね。
「大変だったね」「つらかったね・・・」と、気持ちに寄り添おうとする。 すばらしい。
「そういう時もあるよ」「あなたはがんばったよ」と、安心させようとする。 上手いですね。
では、次の質問です。
(問2)あなた自身が、うまくいかないことがあり、
落ち込んでいるとき、
あなたは自分に、
どのような言葉を掛けていますか?
・・・
同じように、
否定せずに心の声に耳を傾けたり、
「大変だったね」
「そういう時もあるよ」
「あなた(自分)はがんばったよ」と、
心の中で言葉を掛けているでしょうか?
きっと、多くの人は・・・
「これじゃ、ダメだ」
「頑張らないと」
「何が悪かったんだ?」
「とにかく、上手くやらないと」
「どう思われているかな」
「自分はどうしてこんなにずっと悩んでいるんだ」 など
自分を責めたり、完璧を求めたり、不安をあおったりする 厳しい言葉 を掛けているのではないでしょうか。
児童生徒だと思いやりのある言葉を掛けるのに、
自分自身だと厳しい言葉を掛ける
これは、多くの人に共通する傾向だと言われています。
相手が 友人 だったら、どうでしょう?
「ある友人が、色々とうまくいかず、落ち込んでいます」
「この友人にどのような言葉を掛けますか?どのような態度で接しますか?」
・・・
きっと、寄り添った態度で、思いやりある言葉を掛けることと思います。
友人には思いやりのある言葉を掛けるのに、自分自身には厳しい言葉を掛ける。
自分の一番近くにいるのは 自分 なのに。
この小さな疑問が、セルフ・コンパッションの理論につながります。
2 セルフ・コンパッションとは
自分への思いやり
Self=自分への Compassion=思いやり
大切な友人に思いやりをもって接するように
Kristin Neff, Christopher Germar. The Mindful Self-Compassion Workbook.
自分自身に思いやりをもって接すること
例えば
例1:
A先生は、保護者から怒りの電話を受け、状況を説明してお詫びしたが、保護者の怒りは収まらなかった。
A先生は家に帰っても、ずっとそのことを考え、繰り返し、ため息をついていた。
そこで、A先生は自分自身に次の言葉を掛けた。
「ショックだよね。保護者から大きな声で怒られたんだから、そうなるのは当然だよ。
いつも良い指導ができるわけじゃない。人間なんだから、誰だってそうだよ。
あなたが一生懸命にやっていたことは知っているよ。
どうしたいと思っている?
・・・
児童を大切に思っているんだね。
明日、ほかの先生の協力を得て、児童と保護者にできることを、
1つずつやっていこう。」
自分に厳しくしなければ、成長しない?
このように考える人は、多くいます。
しかし、実際は、自分に厳しくするのではなく、優しさでモチベーションを高めようとする人の方が、
うまく逆境を切り抜けて、失敗してもそれを何かを学ぶ機会に転じることができます。
そして、多くの研究で、セルフ・コンパッションの高い人ほど、不安とうつ状態の程度が低いことが明らかになっています。
学校の先生は、厳しいだけでは人が成長しないことを一番よく知っているのではないでしょうか。
教育現場で聞こえてくる言葉でも、
- 結果ではなく過程が大切。がんばったことを認めることが人の成長につながる。
- 悪いところを直そうとするより、良いところを伸ばそうとする方が、人は成長する。
- 自分を責めてもエネルギーが減り、空回りするだけ。視点を変えて、前を見ること大切だ。
と言われており、実際に先生は、児童生徒のことをたくさんほめて、たくさん認めています。
先生ご自身にも、どうか同じように
自分を認める言葉を掛けてあげてください
セルフ・コンパッションの3要素
ストレスを感じているときは、次のステップを参考に、自分自身へ言葉を掛けてみてください。
専門的には「マインドフルネス」と言います。
自分の感情(悲しみ、怒り、恥、恐れなどの 感情を表す言葉)を探します。
見つけたら、その感情を消したり、切り替えようとせず、次のような言葉を自分自身に言います。
「悲しいんだね」
「今は苦しいときだね」
「それは怒りだね」
「他にどんな感情があるだろう」
「否定せず、そのまま感じていていいよ」
「この気持ちのためにスペースを作ろう」 など
専門的には「共通の人間性」と言います。
自分だけでなく、人間は誰でも欠点がありながらも成長を続ける存在であること。
生きていれば、誰だって失敗し、間違いがあり、困難に直面することがあること。
人生はそういうものだと認め、次のような言葉を自分自身に言います。
「誰だって、そういうことはあるよ」
「残念だけど、苦しみは人生につきものだよ」
「人はミスを繰り返して成長するものだよ」
「同じような課題に直面した先生は、たくさんいるはず」
「どんな先生だって上手くいかないことはある」 など
専門的には「自分への優しさ」と言います。
1つの方法として、
悩んでいるのが親しい友人、大切な家族だったら、自分は何と言うだろうかと想像します。
想像したときの優しい気持ちを自分に向け、思いついた言葉を、次のように自分自身に言います。
「本当に大変だったね。休んでいいよ」
「間違いがあっても大丈夫。よく頑張っているよ」
「私はあなたの味方だよ」
「忙し過ぎるんだから、仕方がないことだよ」
「将来に向けた学びの機会になったよね」
「何を大切に思っている?」
「どうしたいと思っている?」
「あなたは良い先生だよ。見ている人は必ずいるよ」 など
最後にもう1つ、例を示します。
例2:
B先生の担当する学級は、ここ数か月、不登校やトラブルが増加していた。
B先生は、自分の学級経営に課題があったのではないかと自信を無くし、仕事に対する意欲は低下した。
そこで、B先生は自分自身に次の言葉を掛けた。
「つらいよね。生徒や学級のことを大切に思っているから、その分、責任を感じて、考えたくないんだよね。
こういう時は、誰にでもあるよ。決して、恥ずかしいことじゃない。
(あなたが)良い先生でありたいと思っていることは、分かるよ。
どうしたいと思う?
・・・
この経験をプラスにすることが大切だね。
今は心が疲れているから無理をせず、生徒と学級の様子をよく観察しよう。何かに気づけるかもしれない。」
まとめ
- セルフ・コンパッション(自分への思いやり)は、「大切な友人に思いやりをもって接するように、自分自身に思いやりをもって接すること」
- 認められることが、人にとって重要だと知っている先生だからこそ、自分自身に認める言葉を掛けてもらいたい
- セルフ・コンパッションの3要素は、「自分の感情に気づき、受け容れる」
「人間は誰でも欠点があり、困難がある、と認める」
「自分自身に優しい言葉を掛ける」
続きはこちら
↓ ↓ ↓
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!