長期休業明けにかけて、児童生徒の自殺が増加する傾向にあります。
この時期に合わせて、教育機関向けの「TALKの原則」を、前編と後編でお伝えします。
このコラムを読むことで、いざという時に、落ち着いて対応できるようになると思います。
重いテーマです。できるだけ配慮ある表現を心掛けますが、疲れている方は休みながら、少しずつ読んでください。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 自殺した児童生徒が置かれていた状況
グラフを見ると「不明」が多いです。
全体の46.9%です。
この調査報告では「不明」の具体例として、
「周囲から見ても普段の生活の様子と変わらず、特に悩みを抱えている様子も見られなかった。等」と示されています。
普段の様子と変わらず、
悩みを抱えている様子を見せず、
亡くなる児童生徒が多い
死にたい気持ちを周囲に話してくれたら、自殺を止めることができたのではないか・・・
自殺を予防するためには、つらい気持ちを打ち明けてもらうことが重要 と考えられます。
児童生徒からSOSが出されないことを話題にすると、
児童生徒に責任が押し付けられるような雰囲気になるので、注意が必要です。
SOSが出されないのは、環境に課題があるのかもしれませんし、
過去に打ち明けたけど寄り添ってもらえなかった経験から、怖くて言えない状態なのかもしれません。
「SOSの出し方に関する教育」が児童生徒に行われるように、
「SOSの出してもらい方に関する研修・啓発」が周囲に必要だと考えられます。
近年、教育現場で自殺予防の教職員研修が多く実施されるようになったことは、とても意義のあることです。
2 TALKの原則とは
自殺対策の基本的な対応法として、知られているものです。
TALK(トーク)の原則と読み、4つの対応の頭文字となっています。
Tell
心配していることを言葉に出して伝える。
Ask
「死にたい」と思うほどつらい気持ちの背景にあるものについて尋ねる。
Listen
絶望的な気持ちを傾聴する。話をそらしたり、叱責や助言などをしたりせずに訴えに耳を傾ける。
Keep safe
安全を確保する。一人で抱え込まず、連携して適切な援助を行う。
引用:文部科学省「生徒指導提要(令和4年12月)」
いのちに関するテーマでなければ、特別な内容ではありません。
伝える、尋ねる、耳を傾ける、安全を確保する。
普段から、学校の先生方が児童生徒にやっていることです。
ところが、自殺というテーマになると、とても難しく感じます。
伝えることも、尋ねることも、耳を傾けることも、安全を確保することも、多くの配慮が必要です。
一つ一つ、具体的にご説明します。
3 Tell(伝える)
心配していることを言葉に出して伝える。
例えば
〇〇さんのことが心配だよ
よかったら、話を聴くよ
〇〇さんの力になりたいです
もし、児童生徒から「死にたい」と言ってもらえたら、
話してくれて、ありがとう。よく話てくれたね
話を聞いて、〇〇さんのことをとても心配しています
と、感謝とねぎらいも加え、心配していることを伝えます。
Tellのポイントは2つあります。
(1)主語を自分にする
「(私が)あなたを心配しています」と伝えます。
家族や友だちを主語にして、「親が心配するよ」「友だちが心配するよ」と伝えるのは危険です。
その児童生徒は、家族や友だちに悩んでいるかもしれません。
「親が心配するわけない!」と否定されて、心が離れてしまいます。
(2)言葉にして、はっきりと伝える
相手は、死にたいほどつらい思いをしている人です。
こちらの反応を見て、ネガティブなものは敏感に読み取りますが、
「心配している」「大切に思っている」という気持ちは、なかなか読み取ってはくれません。
言葉にして、はっきりと伝える必要があります。
心配していることを伝えるときは、
主語を自分にして、
はっきりと言葉にして伝える
「不安で上手く伝えられないかも」と思った先生へ
上手く言えないぐらいが、丁度良いかもしれません。
児童生徒の気持ちを想像すると、自分が死にたいほどの気持ちを話したのに、
先生の表情が落ち着いていて、流暢な話し方で言葉を返したら、
「そんなに大したことがない話でしたか?」と不信感を抱く可能性があります。
「優しく話すのが苦手」と思った先生へ
その児童生徒は、先生のことを信頼して、話をしてくれています。
先生のいつもの声が、安心感につながることがあります。
また、普段、優しい話し方をしない先生ほど、
優しい声を出したときに、伝わるものが大きいと思います。
4 Ask(尋ねる)
「死にたい」と思うほどつらい気持ちの背景にあるものについて尋ねる。
例えば
こういった悩みがあると「生きているのがつらい」と思う人もいるけど、あなたはそう思ったことある?
そんなにつらかったら、投げやりになったり、自分を傷つけたりすることもあるんじゃない?
と、死にたい気持ちについて質問します。
もし、児童生徒から「生きているのがつらい」と言ってもらえたら、
いつからそう思っていたの?
どんなときに、その気持ちは強くなるの?
そういう考えが出たとき、実際に行動へ移したことってある?
と、期間や頻度・強さ、自殺企図歴、道具の準備、どう対処してきたか、などを質問します。
自殺企図は、実際に自殺を企てること、行動することです。これまでの自殺企図の経験を、自殺企図歴(じさつきとれき)といいます。
Askのポイントは3つあります。
(1)死にたい気持ちについて率直に尋ねる
「かえって背中を押してしまうのではないか」と心配する人もいますが、
聞いたからといって人が自殺しやすくなることを明らかにした研究はいまのところ1つもなく、
専門家は口をそろえて「質問しなければならない」と強調しています。
なぜかというと、
本人にとって
質問されなければ話しづらいもの であり
周囲の人にとって
質問しなければ分からないもの だからです。
もし、児童生徒から「いいえ(そのような気持ちはありません)」と回答があっても、
質問すること自体が
「私(先生)には、それを話していいんだよ」というメッセージになります。
(2)クローズド・クエスチョンを使う
別名「閉ざされた質問」
「はい」「いいえ」「〇〇です」で回答を求める質問方法です。
答え方が自由なオープン・クエスチョンと異なり、回答方法が明確なので、答えやすくなります。
うなずいてくれるだけで、コミュニケーションが成り立つのも便利です。
最初はクローズド・クエスチョン、徐々にオープン・クエスチョンの流れがお薦めです。
また、「なかには、~する人もいる」という表現(ノーマライズ)を入れることで
他にも同じような人がいることを前提にでき、「はい」と答えやすくする工夫があります。
「ノーマライズ」について詳しくはこちら
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(3)自殺企図歴や道具の準備等について尋ねる
自殺を考えた人の34%は、具体的な自殺の計画を立てており、
自殺の計画を立てた人の72%は、実際に自殺企図におよんでいた
Kessler, R. C., Borges, G., Walthers, E. E. (1999). Prevalence of National Comorbidity Survey. Arch Gen Psychiatry 56, 617-626.
自殺リスクをアセスメントするためには、
自殺企図歴(これまでの自殺企図)、道具の準備、場所の選択等について、質問することが重要です。
自殺企図歴がある人、計画を立てている人は、自殺リスクが高いと言われています。
自殺に関することは
質問されなければ、話しづらい
質問しなければ、分かりづらい
「それでも、尋ねるのは怖い」と思った先生へ
1人で対応しようとせず、2人になることを考えてみてはどうでしょうか。
面談の途中でも、児童生徒に許可をもらって、他の先生に同席してもらうと、
気持ちに余裕ができ、対応も充実できます。
私が「この先生は信頼できる」と思う先生がいるんだけど、来てもらってもいいかな?
私もよく相談する先生だから、〇〇さんの気持ちもわかってくれると思うの
その先生を呼びに行こうとして、席を離れるとき、児童生徒を一人きりにしないようにご注意ください。
残りの2つ(Listen、Keep safe)は、後編に続きます。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!