長期休業明けにかけて、児童生徒の自殺が増加する傾向にあります。
この時期に合わせて、教育機関向けの「TALKの原則」を、前編と後編でお伝えします。
このコラムを読むことで、いざという時に、落ち着いて対応できるようになると思います。
重いテーマです。できるだけ配慮ある表現を心掛けますが、疲れている方は休みながら、少しずつ読んでください。
前編を読んでいない方はこちら
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内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
5 Listen(耳を傾ける)
絶望的な気持ちを傾聴する。話をそらしたり、叱責や助言などをしたりせずに訴えに耳を傾ける。
例えば
もう限界だと思っているのね。そんな大変な状況のなか、これまでよく頑張ってきたね
そんな大変なことがあって、悩んでいるうちに死ぬしかないと思うようになったのね
と、絶望的な気持ちを否定せず、言葉を返していきます。
Listenのポイントは2つあります。
(1)正論や励ましを言わない
児童生徒から「死にたい」と言われたら、私たちは不安になります。
そのようなことになってほしくないから、
「死んだらダメ」「そんなこと言わないで」と言いたくなると思います。
どう言ったら、考えを変えてくれるだろうと、
正論(例「死ぬほどの問題じゃない」)や励まし(例「大丈夫だよ。そのうち、どうにかなるよ」)を言いたくなると思います。
しかし、こういった対応は多くの場合、状況を悪くします。
なぜかというと、
死にたいと打ち明けた人は
その気持ちを否定されると、自分を否定されたように感じる
では、どう対応するか?
「死ぬこと」を受け容れることはできないが、
「死にたいほどつらい気持ち」を受け容れることはできるので、
死にたいほどつらい気持ちなのね
死にたい・・・それぐらいつらい気持ちなのね
と、共感していきます。
この「死にたいほどつらい」という表現は、本人(児童生徒)からも、違和感をもたれることが少ない言葉です。
「死にたい」は「死にたいほどつらい」に変換して、共感する
(2)背景にある出来事を聴く
起きがちなパターンとして
つらいです
つらいのね
・・・もう生きていられない
それほど、つらいのね
・・・もう死にます!
ちょっと、落ち着いて!
それしかない
まって!まって!
児童生徒の言葉がエスカレートし、先生がパニックになっています。
気持ちだけの言葉でやりとりしていると、
本人(児童生徒)は、もっと分かってもらいたいと思い、言葉を強めることがあります。
このような状況を回避したり、慌てずに対応するには、背景にある出来事を聴くことが重要です。
その気持ちについて聞かせてほしいんだけど、
どんなことがあったの?
何があったのか、話せる範囲でいいから聞かせてもらえますか
「何」「どんなこと」と言うと、良いと思います。
「なぜ」「どうして」と言うと、相手は否定されたように感じる場合があります。
「なぜ死にたくなったの?」
「どうして消えてしまいたいの?」
出来事を聴き、そう思わざるを得ない状況を理解しようとする
6 Keep safe(安全を確保する)
安全を確保する。一人で抱え込まず、連携して適切な援助を行う。
例えば
こんなにつらい思いをしていることを、おうちの人にも知ってもらう必要があると思うよ
あなたのことが心配だから、私からおうちの人に配慮しながら話したいと思うんだけど、いいかな?
また話を聴かせてほしいから、明日も面談しませんか?
と、チームで支援することの許可をもらったり、次の面談の約束をします。
Keep safeのポイントは2つあります。
(1)一人で抱え込まず、組織で対応する
管理職に報告し、組織による対応をはじめます。
「死なないと思う」「大丈夫だろう」という楽観視は、絶対にNGです。
逆に重要なのは、
「最悪、どうなるだろう?」と自問する
また、児童生徒から「誰にも言わないで」と言われることが、多くあります。
児童生徒が恐れているのは、自分の秘密を知られることではなく、それを知った際の周りの反応です。
過剰な反応にも、無視するような反応にも、児童生徒は深く傷つきます。
その児童生徒が何を恐れているのか、それは本人(児童生徒)から聞いてみなければ分かりません。
恐れている反応が分かれば、そうならないための支援が提案できます。
例えば、
もし言ったら、どうなると思うの?
(恐れている反応を聞く)
怒られるのを心配しているのね。
そう思うと、それは・・・言ってほしくないよね。
・・・
でも、もし怒られないなら、〇〇さんがつらい思いをしていることを、知ってもらってもいいのかな?
私から〇〇さんの気持ちをしっかりと伝えて、怒られるようなことはしていないことも説明しようと思うけど、どうかな?
(恐れている反応にならないための支援を提案する)
児童生徒の気持ちを大切にしながら、粘り強く説明することも多いと思います。
そこには、さまざまな提案が含まれるかもしれません。
ただ、何よりも重要なのは、
「あなたが心配だから、伝えさせてもらいたい」
「あなたが大切だから、守る方法を話し合いたい」と、
誠実に説明することだと思います。
(2)物理的に安全を確保する
自殺のホットスポットして有名なサンフランシスコのゴールデンゲートブリッジ。
この橋から飛び降りようとしているところを警察官に発見され、強制的に橋から退去させられた人へ調査を実施した。
結果、約9割の人が数年後にも生存していた(Seiden, R. H., 1978)。
この橋がダメなら別の場所で自殺するのではないかと予想しがちですが、その確率は低い結果でした。
2014年に橋の両端にネット設置が決定し、2024年1月に完成しました。
ネットが一部設置されていた2023年は、例年の半数まで自殺者数が減っています。
この結果から分かること、
それは、物理的に自殺を止めることが、とても重要 ということです。
また、自殺を考える気持ちは、一人になると強まりやすいという特徴があります。
実際、ほとんどの自殺企図は一人でいるときに決行されています。
死にたい気持ちが高まったときは、
少なくともしばらくの期間、できるだけ一人にせず、物理的に安全を確保する対応が必要です。
具体的には、
- 一人で登下校させない
- 家で一人きりにしない
- 自室で長い時間を過ごさせない(時々、声を掛ける)
- 家族の誰かが同じ部屋で寝る など
一人にせず、物理的に安全を確保するためには、家庭と学校の連携が必要です。
死にたい気持ちがある人を、できるだけ一人にしない
7 長期休業の前後にどう対策するか
文部科学省は、次のように通知しています。
各学校において、長期休業の開始前から、ICTツールも活用しつつ、アンケート調査、教育相談等を実施するとともに、一人一人に対して面談を行うなど、悩みや困難を抱える児童生徒の早期発見に努めること
文部科学省(令和6年7月12日付け)通知「児童生徒の自殺予防に係る取組について」
令和6年度の通知から、「一人一人に対して面談を行う」という言葉が追加されました。
各学校で取組が行われていることと思います。
一人一人と面談する方法として、よろしければ、
「教育相談 指さしシート」を活用した短時間面談(1人1~3分)を検討していただければ幸いです。
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「教育相談 指さしシート 長期休業明けの面談バージョン」はこちら
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!