【枠、枠組み、治療構造】スクールカウンセラーは、「枠」で特別な空間をつくる

心理臨床の「基本」を、学校の先生に向けて、コンパクトに説明します。

「そういう空間が、大切なんだ〜」「そういう理由があったのね〜」と、思ってもらえたら嬉しいです。

このコラムを読むと、スクールカウンセラーとの協働を深めることができます。

内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。

このコラムは約3分で読めます。

目次

1 「枠(わく)」とは

別名「枠組み」「治療構造」

定義は、

面接関係やセラピストークライエント間のコミュニケーションのあり方を規定する、
心理面接の基本的で恒常的なルールや要因

鑪幹八郎(1998).精神分析的心理療法の手引き

やさしく言い換えると、

カウンセリングするときの
基本設定

例えば

  • 面接の時間、頻度
  • 相談の部屋、座り方
  • 料金
  • 約束事(例:相談室以外で会わない)

遊びやスポーツの「やり方」「ルール」と、似ているかもしれません。

これがあるから、安全・安心を感じて、取り組みやすくなります

では、「時間」「空間」「ルール」の3つに分けて、「枠」の役割について説明します。

2 時間の枠

例えば

  • 1回50分間で、週1回程度
  • 面接時間は、延長しない

「ケチだな〜」って言われそうですが、理由があります。

終わりの時間が決まっているから、安心して話せる

クライエントは、

終わりの時間が決まっていないと、

話しすぎてしまう怖さ」「話を終えられない不安」を感じることがあります。

終わりの時間が決まっていると、

言いたいことを言って、言いたくないことを言わず相談を上手く終えることが可能になります

もし、気まずい雰囲気になっても終わりがくる ことも分かります。

時間の見通しがあることは、ネガティブな内容を話すクライエントにとって、大きな安心となります

カウンセリングは
終わりの時間を決めて、守る

限られた時間だから、こころの作業に取り組める

カウンセリングは、「気が向いたら、いつでもどうぞ」って感じではありません。

面接時間が限られていることで

クライエントは「その時間だけなら」と、自分のこころの内的な作業に集中して取り組みます

人が集中して自分のこころの声に耳を傾けられるのは、

50〜60分間程度というのが、一般的な考え方です。

自分のこころの声を聴くというのは、それぐらい疲れる作業です

時間を延長したら、その集中力は低下し、時間の濃密さは薄まります

(初回の面接は70〜90分間が一般的で、「満足が得られやすい」と言われています)

カウンセリングは
適度な時間だから、集中して話せる

3 空間の枠

例えば

  • 静かで、プライバシーが保たれている
  • 相談室は居心地が良く、いつも変わらない
  • 相談室以外で会わない

「条件が厳しい」と言われそうですが、理由があります。

カウンセリングという非日常の空間をつくる

いつもの相談室に入ると、いつものテーブルと椅子がある・・・

いつもの席に座ると、いつもの態度でカウンセラーが、そこに居る・・・

相談室以外でカウンセラーに会うことはない・・・

これが日常の中に、非日常の空間を作り出す仕掛けです。

クライエントは、非日常の空間で、そこでしか語れないことを語ります

仕掛けを壊さないためには、いつも変わらないことが重要です

相談に行くたびに部屋が変わっていたり、時間の長さが変わったり、

座る位置が変わったりしたら、気持ちが落ち着かなくなります。

カウンセリングは
空間がいつも変わらないことが重要

範囲やまとまりがあると、こころは安定する

例えば

例1
時間を気にせず、絵を描いてください」と言われると不安ですが、
2時間で、絵を描いてください」と言われると、安心して取り組めます

例2
「レポートを、文字数の制限無しで提出」と言われると戸惑いますが、
「レポートを、A4サイズ1枚で提出」と言われると、安心して取り組めます

「物事の範囲」や「活動のまとまり」があると、

人は安心して、作業に取り組むことができます

カウンセリングも同じです。

例3
24時間いつでも、私に相談の電話をください」と言われると不安定になりますが、
50分間週1回相談室でカウンセリングしましょう」と言われると、安心して取り組めます

時間と空間の枠によって、「物事の範囲」や「活動のまとまり」が作られるので

クライエントは安心して、自分の内的な作業に取り組むことができます

「枠」があるから、安定した心から何かが「湧く」

ダジャレですね。

カウンセリングの時間と空間に枠があるから
こころは安定する

4 ルールの枠

例えば

  • 原則的に秘密を守ること
  • クライエントを利己的に利用しないこと

守秘義務は、児童生徒も知っているようです。

守秘のルールが、信頼関係の基盤になっている

最も重要な「枠」です

クライエントは、他の誰にも知られたくない話を語り・・・

カウンセラーは、こころの奥にある思いを聴こうとする・・・

そこには、秘密を守るという基本的なルールが必要です

守秘を維持することは、

カウンセラーがカウンセラーとして機能する基盤といえます。

カウンセラーの資格に関する法律や団体の倫理綱領等にも、

秘密保持義務が記載されています。

カウンセリングは
守秘が信頼関係の基盤になっている

申込み・予約の手続きが、さりげなく機能する

クライエントは、申込み・予約をすると、

相談室に入る前から

カウンセリングで何を話そうか」「何が課題なんだろう」と考えたりします。

カウンセリングが始まる前から、いろいろ考え始めて、

広義の「カウンセリング」は、申込み・予約の時点から始まってるといっても、過言ではありません。

最悪な状態だった時に、カウンセリングを申し込んだ場合、

カウンセリング当日には少し回復しているということが、実際に起きたりします。

「カウンセリング」は
申込み・予約の時点から始まっている

「枠」には、他にも「カウンセラーを守る役割」「クライエントとカウンセラーの関係性を理解する役割」など

ここでは説明を省略しているものがあり、「心理臨床の基本」は奥が深いものです。

5 学校での「枠」の考え方

このコラムを読んで「学校現場で『枠』を作るのは、難しい」という感想をもった先生が、いるかもしれません。

その通りです

スクールカウンセラーの勤務形態(常勤・非常勤)や学校の状況によって、環境は大きく異なりますが、

学校でのカウンセリングは、「緩やかな枠」「柔軟な構造」になることが一般的です。

こういった状況に対する考え方は、カウンセラーによって異なりますが、

「枠」の重要性を意識して、努力しているスクールカウンセラーは多いことと思います。

例えば

  • カウンセラーの内的な治療構造(態度など)を大切にする
  • 緩やかな枠によるクライエント(児童生徒)への影響を理解する
  • コーディネーターの先生に、時間や部屋の調整をお願いする

勤務校のスクールカウンセラーと話すとき、「枠、枠組み、治療構造」を話題にすると、

「なんで、そんなに詳しいんですか?」と喜ばれるかもしれません。

学校でのカウンセラーの守秘について

文部科学省のWebページには、

カウンセラーがその相談を受け、そのことは守秘される、しかしながら必要と認められることは、カウンセラーの責任において学校に報告されるという相談状況が作られることが望ましい。

とあります。

スクールカウンセラーに求められているのは、

契約上の義務(報告)と、倫理上の義務(守秘)のもとで、慎重に判断・対応することで、

そこには「何が秘密か」「何が学校に必要な情報か」

そして「何がクライエントの利益か」という視点が、欠かせないと思います。

精神科医の神田橋條治(1993)は、

どこまでを学校に報告するかという危険性を「綱渡り」と表現し、

その過程によってカウンセラーのセンスが育つと述べています。

避けて通れない「綱渡り」なら、上手く渡れるようになりたいものです。

神田橋條治(1993).守秘、治療のこころ 第三巻ひとと技

まとめ

  • 「枠(わく)」は、カウンセリングするときの基本設定
  • 「枠」があるから、
    クライエントは安心して相談し自分の内的な作業に取り組むことができる
    カウンセリングは非日常の空間として効果を高めることができる
  • スクールカウンセラーは「緩やかな枠」「柔軟な構造」の中、それぞれが現場で努力している

関連書籍のご案内
心理臨床家の手引[第4版] 誠信書房 鑪幹八郎・名島潤慈(編集)
はじめてのカウンセリング入門(上)ーカウンセリングとは何かー 誠信書房 諸富祥彦

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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