自殺前のサインに気づくというのは、難しいことです。
サインに気づけなかったことを悔やむ言葉を、多くの方々から聴いてきました。
読むのも書くのも苦しいテーマですが、希望をもって届けたいと思います。
できるだけ配慮ある表現を心掛けますが、疲れている方は休みながら、少しずつ読んでください。
生きづらさを感じている方は、リンク先の相談窓口にアクセスしてみてください。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 自殺前のサイン
教職員研修で、学校の先生に「自殺前のサインを挙げてください」とお願いすると、
「自殺をほのめかす」「元気がなくなる」「成績が急に下がる」という回答が、よく出ます。
先生は、毎日、児童生徒に会うため、
日頃から、児童生徒の行動や表情等の変化を観察していること、
そして、授業等をとおして、児童生徒の心の健康度を把握していることが分かります。
文部科学省「生徒指導提要」から引用すると、
自殺直前のサインには以下のようなものがあります。
- これまでに関心のあった事柄に対して興味を失う
- 注意が集中できなくなる
- いつもなら楽々とできるような課題が達成できなくなる
- 成績が急に落ちる
- 不安やイライラが増し、落ち着きがなくなる
- 投げやりな態度が目立つ
- 身だしなみを気にしなくなる
- 行動、性格、身なりが突然変化する
- 健康や自己管理がおろそかになる
- 不眠、食欲不振、体重減少など身体の不調を訴える
- 自分より年下の子どもや動物を虐待する
- 引きこもりがちになる
- 家出や放浪をする
- 乱れた性行動に及ぶ
- 過度に危険な行為に及ぶ
- アルコールや薬物を乱用する
- 自傷行為が深刻化する
- 重要な人の自殺を経験する
- 自殺をほのめかす
- 自殺についての文章を書いたり、自殺についての絵を描いたりする
- 自殺計画の準備を進める
- 別れの用意をする(整理整頓、大切なものをあげる)
引用「第8章 自殺」
学校現場では、自殺予防に限らず、児童生徒の様子に違和感を覚えたときには、
「何か悩みを抱えているのかもしれない」と想像し、声をかけることが重要です。
そして、児童生徒から聴いた話や、最近の様子に、
上記のリストに載っているものがあったら、自殺の危機性を考える必要があります。
また、自殺の危険因子を数多く満たしている児童生徒に、何らかの変化が現れたときには、
リストに載っていないものでも、自殺の危険性を考える必要があります。
第1回「自殺の危険因子」はこちら
↓ ↓ ↓


2 心理的視野狭窄
希死念慮をもっている人は、
「死にたい」という気持ちと「生きたい」という気持ちの間で激しく揺れ動き、
その一端にある「死にたい」という言葉で、苦しい気持ちを表現します。
つまり、「死にたい」という言葉の奥には、「助けて」という意味があります。
しかし、自殺に追い込まれた人に共通する心理状態に、
心理的視野狭窄(しんりてきしやきょうさく)という状態があり、
この状態になると、自殺以外の解決方法が思い浮かばなくなり、
「死にたい(助けて)」という言葉すら発しなくなってしまいます。
そのため、周囲から見ると、
「死にたい」の訴えは以前からあったものの、
自殺直前には、むしろ穏やかな様子であったと報告されることが多いようです。
追い込まれた人は、直前になると
サインを発しなくなることがある
このコラムが「自殺直前のサイン」ではなく「自殺前のサイン」としている理由です。

3 心からのSOSに気づくために
学校の先生に必要な2つの視点について説明します。
(1)指導から支援に切り替える
こころが疲れているとき、人はわがままになります。
自分のことなんてどうでもいいと思ったら、投げやりな態度になります。
うつ状態になると、不機嫌になり、怒りっぽくなります。
自分の感情を抑える力が、弱まるイメージです
つまり、他者に迷惑を掛ける行為は、「困っている人のSOSのサイン」です。
学校の先生は、児童生徒の成長を重視するため、
わがまま、投げやりな態度、不機嫌や怒りに対して、指導の視点を持つことが多いと思います。
例えば、「他の人に迷惑をかけてはいけません」
しかし、そのような児童生徒に必要なのは、指導のまえに支援です。
困っているのは・・・、本人です。
指導から支援に視点を切り替えて、心の奥から発信されたSOSに耳を澄ませることが重要です。
わがままな人は、余裕がない人
怒っている人は、困っている人

(2)体調不良がサインかもしれない
「自殺前のサイン」のリストには、うつ病の症状がたくさん載っています。
うつ病は、大人のこころの病気だと思われることがありますが、
小学生、中学生でも、うつ病になることが明らかになっています。
こどものうつ病に目立つ症状は、怒りっぽさ、睡眠の乱れ、体調不良の3つです。
頭痛、腹痛、吐き気などの体調不良を訴えて、欠席、遅刻、早退、保健室の来室が増えたときは、
うつ病の初期症状である可能性を考えてみてください。
身体や行動で表現しているサインに目を向けることで、心の危機に気づきやすくなります。
児童生徒は言葉ではなく
身体と行動で表現する

4 サインなのか分からなくても
「自殺のサインがあったと思うか」との問いに「あったと思う」と答えた遺族は58%いたが、「それが発せられた時点でもそれを自殺のサインだと思ったか」との問いには、遺族の10%しか「思った」とは答えなかった。
「なぜ自殺してしまったのだろうか」。家族を自殺で亡くした遺族の多くは、そうした答えのない問いを抱えている。そして、その答えを懸命になって探そうと過去を思い返し、「あの時深いため息をついていたが、あれはサインだったのでは」「そういえば疲れた表情をしていたな」などと、無理にでも「自殺のサイン」を見つけ出そうとしてしまう。しかし、実際はそうした「サイン」と呼ばれるものの多くは、それが発せられた時点ではサインとは受け止められていないことが多いのである。
引用:NPO法人ライフリンク「1000人の声なき声に耳を傾ける調査」
青マーカーは当Webサイトが引いたもの
サインは「かすかなもの」であり、その時点で、自殺前のサインとして受け止めるのは難しいものです。
そのため、重要なのは
サインなのか分からなくても
違和感を覚えたら声をかける
例えば
- ある児童生徒が、不思議な場所に一人で居る
- ある児童生徒が、職員室の前に立っている
- ある児童生徒が、暗い表情をしている
- ある児童生徒が、バンドエイドを貼っている
- ある児童生徒の書いた文章が、奇妙だった など
必要なのは、このような様子があったときに、声をかけて話を聴くことです。
多くの先生にとっては、当然のような対応かもしれませんが、
こういった通常の対応が、自殺予防になっているのではないかと思います。

自殺のサインのなかには、児童生徒であればそれほど珍しい変化ではないと思われるものも含まれています。大切なことは、その児童生徒の日常をしっかりと見た上で、何らかの違和感を覚えたときには無駄になるかもしれないことを恐れずに関わることです。
引用:文部科学省「生徒指導提要」
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特殊詐欺被害は、店員からの声かけによって、防がれることが多くあります。
児童虐待は、地域住民や学校からの通告によって、防がれることが多くあります。
必要なのは、確信が持てなくても声を出す行動です。
つまり、
危機から人を守るためには
少しおせっかいぐらいの行動がちょうど良い
声のかけ方は、
- 「どうしたの?」
- 「何か困っている?」
- 「なんだか表情が暗いけど、どうしたの?」
- 「なんとなく元気なさそうだね?」
- 「最近、疲れてない?」
- 「ゆっくり休めてる?」
児童生徒から「別に何もありません」「いつもどおりです」と言われたら、
「勘違いでしたね」「気のせいですね」「ごめんなさい」と言えば、嫌な感じにはなりません。
話が聴けそうなら、困っていることがないかと話を聴き、
何か困ったことがあれば力になると伝え、
必要に応じて、スクールカウンセラーとの相談につなげます。

全3回のシリーズで、
高リスクの児童生徒を発見するために何ができるか を解説しました。
近年ではICTツールの活用が、文部科学省から通知されています。
活用が促進されることを、願うばかりです。
一方、ツール(道具)をうまく利用するためには、何をもって高リスクなのかを理解することが必要になります。
教職員の研修は、今後もさらに求められるものと思います。
まとめ
- 他者に迷惑を掛ける行為は、「困っている人のSOSのサイン」
- 児童生徒は言葉ではなく、身体と行動で表現するため、体調不良がSOSのサインであることがある
- 違和感を覚えたら、サインなのか分からなくても声をかけることが重要
- 危機から人を守るためには、少しおせっかいぐらいの行動がちょうど良い
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!