令和4年12月に、文部科学省の「生徒指導提要」が改訂されました。
そのなかで、初めて記述された「BPSモデル」という、学校ではあまり馴染みのない言葉・・・
実は、学校が連携する先の関係機関・専門家には、よく浸透している言葉です。
このコラムを読むと、アセスメントの考え方を学ぶことができます。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 BPSモデルとは
別名「生物・心理・社会モデル」
生物(Biomedical)+ 心理(Psychological)+ 社会(Social)
英語だと「バイオ・サイコ・ソーシャルモデル」で、頭文字で略した読み方は、BPS(ビー・ピー・エス)モデルです。
「生物・心理・社会モデルだと・・・」「BPSモデルだと・・・」とは、あまり言わず、
「バイオ・サイコ・ソーシャルで考えると・・・」みたいな言い方が多いと思います。
児童生徒の状態を
生物学的要因、心理学的要因、社会的要因と、それらの
相互作用から把握すること
学校の立場から、各要因の例を挙げると、
BPS | 例 |
---|---|
生物学的要因(バイオ) | 健康状態、疾患、症状、服薬 発達特性、食事、睡眠 など |
心理学的要因(サイコ) | 認知、感情、悩みごと、ストレス、トラウマ 興味・関心、コミュニケーション能力 など |
社会的要因(ソーシャル) | 家族関係、友人関係、教職員との関係 経済状況、ソーシャルサポート など |
BPS | 例 |
---|---|
生物学的要因 (バイオ) | 健康状態 疾患、症状、服薬 発達特性 食事、睡眠 など |
心理学的要因 (サイコ) | 認知、感情 悩みごと ストレス、トラウマ 興味・関心 コミュニケーション能力 など |
社会的要因 (ソーシャル) | 家族関係 友人関係 教職員との関係 経済状況 ソーシャルサポート など |
これらの分類は、立場や視点によって変わります。
例えば「学習」は、
認知能力 = 生物学的要因(バイオ)
学習意欲 = 心理学的要因(サイコ)
学習環境 = 社会的要因(ソーシャル)
生徒指導提要では
「生徒指導提要(改訂版)」には、次のように記述されています。
アセスメントには、多種多様な方法がありますが、その中でも、心理分野・精神医療分野・福祉分野等で活用されているアセスメントの方法として、生物・心理・社会モデル(以下「BPS モデル」という。)によるアセスメントを挙げることができます。
生徒指導提要 第3章チーム学校による生徒指導体制
心理分野・精神医療分野・福祉分野等とあるように、
養護教諭、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、学校医等にとっては、親しみのある考え方です。
チーム学校による生徒指導を推進するため、
必要な共通言語として、記述されたのではないかと予想します。
2 BPSモデルによるアセスメントの例
不登校傾向の例で、考えてみましょう。
中学1年生のAさんは、体調不良を理由に連続して学校を休んでいます。
学級担任は、Aさん・保護者と面談して、Aさんの状態を理解したいと考えています。
学級担任は、どのような観点から話を聴く必要があるでしょうか?
例えば
BPS | 観点 |
---|---|
生物学的要因 | 健康状態、症状と疾病の可能性、受診や服薬 食事や睡眠、発達特性、学校が休みの日の体調 |
心理学的要因 | 悩み・困りごと、ストレス、登校への意欲、性格傾向 好きなこと、本人は今の状態をどう捉えているか |
社会的要因 | 学習や友人関係の状況、家庭生活の状況、仲の良い友だち 欠席した日に何をしているか、欠席に対する保護者からのかかわり |
BPS | 観点 |
---|---|
生物学的要因 | 健康状態 症状と疾病の可能性 受診や服薬 食事や睡眠 発達特性 学校が休みの日の体調 |
心理学的要因 | 悩み・困りごと ストレス 登校への意欲 性格傾向 好きなこと 本人は今の状態をどう捉えているか |
社会的要因 | 学習や友人関係の状況 家庭生活の状況 仲の良い友だち 欠席した日に何をしているか 欠席に対する保護者からのかかわり |
3つの要因から、本人の状態をアセスメントします。
これらの観点から得られる情報は、
不登校の原因を探すため でもあり、
今後の支援を考えるため でもあります。
そのため、好きなこと、仲の良い友だち といったリソース(資源)探しが含まれています。
3 学校でBPSモデルを活用するポイント
では、どのようにBPSモデルを活用するか、
4つのポイントをご説明します。
(1)多面的な要因から検討する
例えば
高校1年生のBさんは、学校を休みがちです。
Bさんは「学校生活にやる気が出ない。電車に乗って、通学するのがつらい」と言っています。
これを聞いたHR担任は、不登校傾向の理由は「登校する意欲の低下」と理解しました。
HR担任の理解は、適切でしょうか?
あなたは、HR担任に、どのような助言をしますか?
他の要因も考えて、仮説を立てる
「登校する意欲の低下」は、心理学的要因です。
生物学的要因と社会的要因は、何が考えられるでしょうか。
BPS | 観点 |
---|---|
生物学的要因 | 体調不良や、食事・睡眠の状態は? 精神疾患(うつ病等)の可能性は? 発達特性とその影響は? |
社会的要因 | いじめ・トラブルが隠れている可能性は? 入学してからの高校生活や友人関係の適応度は? 家庭環境とその影響は? |
BPS | 観点 |
---|---|
生物学的要因 | 体調不良や、食事・睡眠の状態は? 精神疾患(うつ病等)の可能性は? 発達特性とその影響は? |
社会的要因 | いじめ・トラブルが隠れている可能性は? 入学してからの高校生活や友人関係の適応度は? 家庭環境とその影響は? |
Bさんの休みがちな状態や、意欲が低下している理由について、可能性として仮説を考えます。
そして、必要な情報を得て、仮説を検証していくことが重要です。
(2)生物学的要因(バイオ)を見逃さない
関係機関・専門家には、得意・不得意な領域があります。
BPSモデルの源流である精神医療分野は、生物学的要因(バイオ)が得意です。
そのため、心理学的要因と社会的要因も含めて、包括的にアセスメントすることが重視されています。
では、教育分野の得意・不得意は、どれでしょうか?
学校は、心理学的要因と社会的要因が得意
そのため、生物学的要因(バイオ)も含めて
包括的に見ることが重要
特別支援学校は、生物学的要因も得意としています
学校は
心理学的要因と社会的要因が得意
そのため
生物学的要因(バイオ)も含めて
包括的に見ることが重要
特別支援学校は、生物学的要因も得意としています
生物学的要因(バイオ)の例を挙げると、
BPS | 観点 |
---|---|
生物学的要因 | てんかん、起立性調節障害、過敏性腸症候群、発達障害 統合失調症、うつ病、PTSD、心身症、摂食障害 など |
BPS | 観点 |
---|---|
生物学的要因 | てんかん 起立性調節障害 過敏性腸症候群 発達障害 統合失調症 うつ病 PTSD 心身症 摂食障害 など |
このように例を示すと、そこに載せなかった疾患のある方に申し訳なく思います。
今回は、次の「手引き」から引用させていただきました。
引用元:
文部科学省「教職員のための子どもの健康相談及び保健指導の手引(H23.8)」
文部科学省「教師が知っておきたい子どもの自殺予防(H21.3)」
起立性調節障害(生物学的要因)が、怠けている(心理学的要因)と誤解されやすい問題は、
ご存知の方も多いかもしれません。
生物学的要因(バイオ)を見逃さないことが重要です。
また、生物学的要因(バイオ)の身近な専門家は、養護教諭です。
まずは、養護教諭との協働を大切にしたいところだと思います。
(3)3つの要因の相互作用を理解する
暴力行為の例で、考えてみましょう。
中学2年、男子のCさんは、友だちとトラブルになって、相手の顔を殴ってしまいました。
ある先生は、Cさんの衝動性の高さを、発達特性として指摘しました。
そこで、学校は校内ケース会議を開き、Cさんへの指導・支援を検討することにしました。
BPSモデルで情報を整理すると、
BPS | 観点 |
---|---|
生物学的要因 | 衝動性が高い(思ったことをすぐに発言する) |
心理学的要因 | いじめ加害(悪口)を繰り返し、学校は指導を続けている 2年生から気持ちが不安定になっている 口癖のように「どうせ、俺なんか」と言う |
社会的要因 | 父子家庭で、父親が4月に仕事を変えた Cさんが、弟と妹の世話をすることがある 級友から距離を取られている |
BPS | 観点 |
---|---|
生物学的要因 | 衝動性が高い(思ったことをすぐに発言する) |
心理学的要因 | いじめ加害(悪口)を繰り返し、学校は指導を続けている 2年生から気持ちが不安定になっている 口癖のように「どうせ、俺なんか」と言う |
社会的要因 | 父子家庭で、父親が4月に仕事を変えた Cさんが、弟と妹の世話をすることがある 級友から距離を取られている |
このように情報を集めると、要因と要因の関連が、可能性として見えてきます。
例えば
- [生物]衝動性が高い
[心理]いじめ加害を繰り返す - [心理]気持ちが不安定
[生物]衝動性を高めている - [社会]父親が仕事を変えた
[心理]気持ちが不安定になっている - [社会]弟と妹の世話が大変
[心理]気持ちが不安定になっている
など、他にもありますが・・・。
要因と要因の相互作用も含めて、Cさんをアセスメントすると、
「Cさんの衝動性の高さ」にも、影響している要因があり、
衝動性の高さ = 発達特性 とは言い切れないことが分かります。
(発達特性であることを否定するものではなく)
BPSモデルによって
児童生徒の状態を、複合的に理解することができる
(4)3つの要因からチーム・アプローチする
BPSモデルは、状態を把握することで終わりません。
3つの要因から支援することが重要です。
ただ、これは学校だけでできることではありません。
特に複雑なケースの場合は、関係機関・専門家と連携して、支援を進める必要があります。
次の言葉が「生徒指導提要」に出てくる回数をカウントしました。
「担任」83回
「生徒指導主事」45回
「養護教諭」61回
「スクールカウンセラー、SC」84回
「スクールソーシャルワーカー、SSW」71回
「関係機関」220回
「チーム」267回
生徒指導のイメージが、大きく変わりませんか?
文部科学省が、地域の関係機関との連携を重視していることがよく分かります。
関係機関・専門家との連携に必要な共通言語として「BPSモデル」を説明しましたが、
逆に、「BPSモデル」を説明することで、
関係機関・専門家との連携が必要であることを、お伝えできたのかもしれません。
まとめ
- 生物学的要因、心理学的要因、社会的要因の3つと、その相互作用から、児童生徒の状態を把握する
- 多面的、複合的に理解することができる有効なモデルである
- 関係機関・専門家と連携して、3つの要因から支援することが重要
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!