今回のテーマは、学校現場でたくさん見てきた姿です。
児童生徒は戸惑って、動けない状態・・・、強いストレスだと思います。
やっている先生も、どこか苦しそうな表情に見えることがあります。
多くの先生に、このコラムを読んでいただき、教育現場が安全になることを願っています。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 ダブルバインドとは
double = 二重 bind = 拘束
二重拘束
あるメッセージと、
Gregory Bateson, Double Bind Theory
矛盾した別のメッセージを、
同時に伝えること
例えば
例1 恋人から「本当の気持ちを言って」と言われる
例2 否定的な上司から「自分の考えを言いなさい」と言われる
例3 先輩職員から「何でも相談して」と言われたので相談したら、「これぐらい自分で考えて」と言われる
例4 親から叩かれたあと、「愛している」と言われる
それぞれに2つのメッセージがあります。
そして、その2つは矛盾しているので、言われた方は、戸惑い固まるしかありません。
何をしても罰せられる
ダブルバインドの本質は、何をしても罰せられること、逃げられないことです。
上記の4つの例について、解説します。
例1 恋人から「本当の気持ちを言って」と言われる
2つの矛盾するメッセージがあります
①(言語)本心を言ってほしい
→ 本心を言わないと(罰)がある
②(非言語)傷つけないでほしい
→ 本心を言うと(罰)がある
本心が何かによりますが・・・文脈から、言いにくいことでしょう
例2 否定的な上司から「自分の考えを言いなさい」と言われる
2つの矛盾するメッセージがあります
①(言語)自分の考えを言ってほしい
→ 考えを言わないと(罰)がある
②(非言語)役立つ仕事をしてほしい
→ 考えを言うと(罰)がある
そもそも役立つことが思いついていたら、言っていますね
例3 先輩職員から「何でも相談して」と言われたので相談したら、「これぐらい自分で考えて」と言われる
2つの矛盾するメッセージがあります
①(言語)何でも相談してほしい
→ 相談しないと(罰)がある
②(言語)相談する前に自分で考えてほしい
→ 相談すると(罰)がある
もう相談できませんね・・・自分の発言には責任をもってほしいです
例4 親から叩かれたあと、「愛している」と言われる
2つの矛盾するメッセージがあります
①(言語)愛している
→ 近づかないと(罰)がある
②(行動)愛していない
→ 近づくと(罰)がある
児童虐待で起きていることです
何をしても罰せられます。ここでの(罰)は、評価が多いかもしれません。
また、メッセージの形式は、言語、非言語(表情や行動など)など多様です。
例のうち、いくつかは、送り手の気持ちも想像できますが、
重要なことは、受け手にとって「何してもダメ」と追い詰められた状態であることです。
ダブルバインドは、受け手を追い詰め、ストレスと困惑を生む
2 学校現場のダブルバインド
4つのパターンで、説明します。
パターン1「その聞き方はつらいよ」
聴き取りのなかで
怒らないから、正直に話しなさい
・・・
先生は児童生徒のために、正直に話すよう伝えたが、
児童生徒の心の中は、
- 正直に言ったら怒られるに決まっている(悪いことをしたら怒られる)。
- 「怒らないから」と言っている時点で、既にちょっと怒っていて、黙っていても怒られそう。
- 話をさせるための誘導で、信用できないんじゃないか・・・先生の本心がわからない。
同じパターンは他にも、
- 職員室に呼ばれて、行ったら、先生から「何で呼ばれたか分かる?」と聞かれる
パターン2「矛盾していますよ」
宿題を忘れた児童生徒に対して
宿題を忘れた理由はなに?
昨日は、部活が遅くまであって・・・
それは言い訳だ!
みんなは提出できているぞ!
・・・
先生は、児童生徒の行動に課題があることを指摘したかったが、
児童生徒の心の中は、
- 理由を聞かれたから、言ったのに、なぜ怒られるんだ!?
- 先生の言っていることは、矛盾している。信用できない。
- 面倒臭いから、先生の機嫌が悪くならないように過ごそう。
パターン3「それは逆ギレですよ」
顧問の先生が、部員を叱ったあとに
私の言うとおりに、練習できないのですね
じゃあ、自分たちで考えて、練習しなさい
私は練習内容について口を出しません
・・・
先生は、児童生徒が練習を振り返る機会と考えたが、
児童生徒の心の中は、
- 「わかりました」と言ったら、もっと怒られそう。
- 「それはできません」と言っても、「だったら!」と怒られそう。
- 笑顔が逆に怖い。絶対に、本心じゃない。
- 先生の機嫌を損ねてはいけない(不安を高め、顔色をうかがう)。
同じパターンは他にも、
さすがに、今はないと思いますが、
- 部活動での「やる気がないなら、やらなくていいよ」
- 授業中の「もう勝手にしなさい」
パターン4「言葉以外はそう言ってないよ」
友だち関係のトラブルを相談したら
(嫌そうな表情で)また、何かあったら相談してください
・・・
先生は、児童生徒が安心する「言葉」を掛けたが、
児童生徒の心の中は、
- 先生の表情は、相談してほしくなさそう。迷惑だったのかもしれない。
- 言葉では何とでも言えるけど、表情は嘘をつかないってこと?
- 次に何かあったら、相談した方がいいのかな?相談しない方がいいのかな?
同じパターンは他にも、
- 不登校の状態で悩んでいたら、先生から「無理に登校しなくていいよ」と、怖い表情で言われる
- 職員室の多くの先生がいるところで、「家庭のことは答えづらいかもしれないけど・・・」と質問される
ダブルバインドは、児童生徒の自信の喪失と、先生への不信感につながる
3 対策するには
このコラムを読んで、知識をもっていただけたら、それが対策になると思いますが、
2つ補足したいと思います。
(1)指導に困ったときは、アンガーマネジメントする
学校の先生が、ダブルバインドをやっている場面を分析すると、
- 児童生徒が困惑しても、先生が気づかない。
または気づいても、対応を柔軟に変更できない。 - 先生が矛盾したことを言っているが、自分では気づかない。
または気づいても、「それしかない」と思考する。
という状態が、課題として考えられます。
普段は丁寧に指導する先生が、どうしてこのような対応になってしまうのか?
人は、困ったときに「怒り」を感じます。
児童生徒への指導に困っているとき、先生が「怒り」を感じるのは自然なことです。
ただ、強い「怒り」は、心理的な視野を狭め、冷静な判断を阻害します。
気持ちに余裕がある先生は、
自分の発言に矛盾があることや、
児童生徒が困惑していることに気づき、
柔軟に対応することができる
指導に困っているときは、「怒り」の感情を探し、
冷静な対応ができる状況になるまで、クールダウンすることが重要です。
(2)言語と非言語を一致させる
一致しない理由として、
- 2つ以上の感情を抱いている(学校の先生は、様々な状況を想定している)
- 心ここに在らず(学校の先生は、多くの児童生徒を相手にしている)
- 疲れ切っている(学校の先生は、とにかく忙しい)
など、があるかもしれません。
ただ、有名な「メラビアンの法則」の実験でも、明確な結果が出ているように、
言語と非言語が一致しないとき、受け手は非言語(視覚・聴覚からの情報)を優先して受け取ります。
メッセージを正確に伝えるためには、言葉に合わせた表情や口調になるよう、意識した方が良いかもしれません。
多くの方が想定している以上に、児童生徒は、先生の表情をよく見ています。
まとめ
- ダブルバインドは、あるメッセージと、矛盾した別のメッセージを、同時に伝えること
児童生徒を追い詰め、ストレスと困惑を生む - 学校現場のダブルバインドには、4つのパターンがある
- 「望ましくない対応」として具体例を理解することで、対策することができる
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!