多くの先生が、意識せずにやっている「間違い指摘反射」
児童生徒のために、正しいことを伝えているのに、どうして言うことを聞かないし、嫌な顔をされるんだろうって思うことはありませんか。
このコラムを読むと、児童生徒・保護者に対する対応力をレベルアップできます。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 間違い指摘反射とは
別名「正したい反射」
人は、相手が間違ったことを言うと、反射的に正したくなる
Miller, W. R., & Rollnick, S. Motivational Interviewing(動機付け面接)
例えば
例1 ある先生が「取り付く暇もないよ」と言うと、「島ですよ」って正したくなる。
例2 ある保護者が「学校としてSNSの使用を禁止にしてほしい」と言うと、「いやいや」って正したくなる。
例3 ある児童が「ゲームを止めるくらいなら、学校を辞める」と言うと、「何を言っているの!?」って正したくなる。
一般的に 誰にでもある欲求、行動 です。
すべて相手のために行われています。
しかし、指摘された人は「分かっているよ!」「なんで?」「自分はそうは思わない」と反発したり、
「そうですよね」と言って離れていきます。
教職員にとって、この概念が重要な理由
教職員は「間違い指摘反射」をする傾向が強いと考えられます。
なぜなら、教職員には児童生徒の成長を支える役割があり、児童生徒の役に立ちたいという願いがあるからです。
相手のためを思って行動する人ほど、問題を見つけたときに、
それを指摘したい(正しいことを学んでほしい、正しい方向に進んでほしい)と考えるのではないでしょうか。
2 何が問題なのか
2つの具体例から、問題を分析してみましょう。
学校での具体例1
別に勉強しなくたって、生きていけるから大丈夫でしょ。
勉強しないと、働いていくことができないよ。
将来、大変な思いをするよ。
(間違い指摘反射)
こどもの頃に勉強しなかったけど、働いている大人はたくさんいる!
先生はAさんのために勉強の必要性を伝えたが(間違い指摘反射)、
- Aさんは反発して、先生の言っていることが正しくないと主張している。
- Aさんは、より勉強しない方向に動機づけられている。
- Aさんと先生の関係は、良い方向には向かっていない。
学校での具体例2
寝る前に2時間ぐらい、スマホをいじっちゃうんですよね。
寝る前にブルーライトを見ると、眠れなくなるんだよ。
(間違い指摘反射)
それが私のストレス解消法なのに・・・。
みんな、やっているでしょ。
先生はBさんの健康を心配したが(間違い指摘反射)、
- Bさんは、自分の気持ちを分かってもらえないことに不満をもっている。
- Bさんは、自分の健康を大切にしない方向へ動機づけられている。
- Bさんと先生の関係は、良い方向には向かっていない。
相手の間違いを反射的に指摘すると、
防衛的(「私はそうは思いません」「私は悪くない」)にさせやすく、
理解してもらえないという感覚(「先生は私がどれだけ大変な思いをしているか分かっていない」)を引き出しやすい。
「先生なんだから、正しいことを言うのが仕事」という声が聞こえてきそうです。
ある意味、それは正しいです。
ただ、児童生徒と保護者は、同じように考えているでしょうか?
きっと、「先生なんだから、上手く言葉を返して正しい方向に導いてくれるのが仕事」と考えるのではないでしょうか。
つまり、
正しいことを言う
→ 上手く言葉を返して正しい方向に導く
3 対策するには
(1)自分に「間違い指摘反射」があることを自覚する
あくまで行動レベルの話なので、
言いたくなった時に、グッと抑えることが何よりも大切です。
「これを言っても、良い方向には進まない」と冷静に相手と自分を見ます。
そのためには、普段のコミュニケーションで
自分が「間違い指摘反射」したときに、やってしまったと自覚することが重要です。
(2)相手の発言の背景にある「本当の気持ち」を理解する
例えば、ある生徒が「家庭学習なんて必要ない!」と言いました。
家庭学習なんて必要ない!
背景にある「本当の気持ち」は何でしょうか?
例えなので、あくまで可能性ですが・・・、
「家庭学習しても効果がなかったらと思うと不安だ」
「やり方が分からない」
「家庭に学習できる環境がない」 などが考えられます。
このような生徒に、
「家庭学習は大切だよ」
「習慣づけないと後悔するよ」 と反射的に言葉を返したら、
家庭学習は大切だよ。習慣づけないと後悔するよ
(間違い指摘反射)
児童生徒の気持ちに合っていない助言のため、
「私を理解してくれない」「私はそうは思わない」と反発したり、関係をこじらせたりする可能性が高いのです。
私を理解してくれない。私はそうは思わない
気持ちに合わせた対応をしていくためには、「間違い指摘反射」を抑え、話を聴いていく必要があります。
(3)話を聴きつづける
児童生徒から出てきたネガティブな話を聴きつづけたからといって、
悪い方向(例:家庭学習しない)に導いていくことにはなりません。
なぜなら、話を聴いているうちに、
「成績が上がらなかったら、無意味だし」
「いつかは始めるかもしれないけど、まだいいや」
「前にちょっとやってみたけど、どうやったらいいか分からないし」
という本当の気持ち、揺れている気持ちが、児童生徒から語られるからです。
このまま話を聴いていく対応で十分ですが、
さらに、上手な先生なら、
「意味があることを、やりたいんだね」
「(あなたは)ずっと家庭学習しないわけにはいかないと思っている・・・」
「前にやってみたのは、何か理由があったの?」 と言葉を返します。
上手くいけば、児童生徒の方から
「どうしたらいいかな・・・。みんな、どこでやっているんだろう? 学校に残っているのかな」
と、言ってくれるかもしれません。
揺れている気持ちについて
「家庭学習なんて必要ない!」と言った生徒は、①家庭学習したくない ②家庭学習した方が良い の2つの気持ちで揺れています。
例えば、大人でも
「私は早死にしてもいいから、酒を飲み続ける」
→ ①酒は飲み続けたい ②健康は気になる
「パソコンは無理だから、他人に任せる」
→ ①苦手なことはしたくない ②できるなら自分でやりたい
両方の気持ちがあって、揺れています。
このような時に、先生が ②家庭学習した方が良い を押す(間違い指摘反射)と、
生徒はもう一方の ①家庭学習したくない を押し返して、気持ちの揺れを安定させようとします。
説得されると、反発したくなるのが人間です。
思春期・青年期は、特にそうだと思います。
まとめ
- 「間違い指摘反射」は、誰にでもある。ただし、良い方向に進まない。
- 「正したい」という欲求に自分で気づき、行動レベルでグッと抑えることが重要。
- 説得するのではなく、相手の気持ちを理解しようと話を聴くことが、「急がば回れ」の対応となる。
- では、「間違い指摘反射」を抑えたあと、いつ、どのように助言したらよいのか・・・、
それは、次回のコラム「助言するときの作法」で解説します。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
※本コラムでは、分かりやすさを重視して「正しいこと」「正しい方向」と表現しています。そのようなものは無いのですが・・・。