比喩は、誰もが日常で用いる表現方法です。
教育現場では、学習内容を説明するために、比喩が使われています。
同様に、教育相談の場面でも、比喩を上手く使って、効果的な働きかけを行うことができます。
このコラムを読むと、意図をもって比喩を活用できるようになります。
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 メタファーとは
例えば
例1 「人生は長い旅だ」
例2 「あなたは私の太陽です」
例3 「この料理は海の宝石箱や」
ある事象を、別の事象で、表現・説明するものです。
語源は古代ギリシャ語の meta(超える)+ pherein(運ぶ)、一方から他方へ意味を移す。
隠喩(いんゆ)
比喩には、いくつかの種類があります。
「~のようだ(ように)」などの言葉が使われているものが「直喩(ちょくゆ)」。
逆に、使われていないものが「隠喩(いんゆ)」です。
メタファーは後者の「隠喩」ですが、このコラムにおいて、この2つの違いはあまり意味をもちません。
(ちなみに、直喩はシミリー)
カウンセリングで使われるメタファー
例えば
例1 「彼がいなくなって、心に大きな穴が空きました」
例2 「うつ病は、心の風邪です」
例3 「家に、私の居場所は無い」
カウンセリングではメタファーが、一般的な会話より多く使われます。
理由は、
- 感情の表現に、メタファーが多い(例「怒りで爆発しそう」「胸を引き裂かれる」)
- 内的な世界の共有に、メタファーが便利(例「教室の隅に追いやられた」「心のブレーキが効かない」)
- 理論の説明に、メタファーが役立つ(例「氷山(無意識等)」「風船・ボール(ストレス理論)」)
などが考えられます。
カウンセリングでメタファーが役に立つことは、様々な分野において概ね意見が一致しています。
ただ、治療効果に関する科学的根拠を出すことが、難しい分野です。
良いメタファーの3要素
説明のため、
例「人生は長い旅だ」の「人生」を【対象】、「旅」を【たとえ】と表現します。
良いメタファーは、
- その児童生徒にとって重要な内容を【対象】としている
- 【たとえ】の特徴が、【対象】よりも目立っている
- その児童生徒の知識・経験に合わせた【たとえ】である
ここで強調したいのは③です。
学校の先生は、児童生徒の学校生活、将来の目標、趣味などを知る機会が多いので、
その児童生徒に合わせた【たとえ】を作りやすいと思います。
例えば
例1 ポケモン好きの児童生徒に対して
勉強も部活も忙しくて、本当に大変なのね
ポケモンだったら、そろそろ「覚醒」できるかもね
【対象】忙しくて大変な日々
【たとえ】ポケモンが成長する過程
例2 サッカー部所属の児童生徒に対して
空気を読むのって、オフサイドトラップみたいに
周りをよく見る必要があるんだよ
【対象】コミュニケーションのトラブル
【たとえ】サッカーのファール
2 活用方法
(1)用意したメタファーを使う
多くは説明する場面で、ある程度準備したものを使います。授業と同じです。
例えば
例:保護者面談で「お子様へのかかわり方」について説明する。
例えば、風邪を引いたときには、味覚が変わりますよね。普段、好きな油ものを受け付けなくなったり
今の〇〇さんも、普段は嬉しい言葉が、しんどく感じるのかもしれません
コミュニケーションは文脈と切り離せないものです。
このメタファーを同じように使っても、文脈によって意味が異なりますのでご注意ください。
(2)児童生徒から出たメタファーを活かす
児童生徒がメタファーを使ったとき、それを活用して話を聴くことができます。
例えば
親は、妹の言うことなら何でも聞くんです
妹は王女様ですよ
王女様なのね〜
それで、王女様はどんなことを要望するの?
(3)一緒にメタファーを作る
その場で、聴いた話からメタファーを作ります。
メタファーを児童生徒が受け容れた場合は、詳細を児童生徒から聴いていきます。
例えば
腹鳴(ふくめい)恐怖の例
教室でお腹の音が鳴るんじゃないかと思うと、
どんどん不安になって、授業がまったく聞けないんです
とても不安なんだね
話を聴いていると、飼っている犬が吠えると、近所に聞こえて困るから、吠えないように見張っているようだね
大きな声で鳴くので困ります
全然、言うことを聞かないんです
しつけするのが大変なんだね
いつから、その犬を飼っているの?
児童生徒は、メタファーを受け容れ、「吠える」→「鳴く」に変更しています。
3 効果
(1)分かってもらった感じがする
その児童生徒にとって重要な内容を、先生がメタファーで言い表し、
それが「そうそう!」「まさに、それ!」という表現だったとき、児童生徒は理解してもらったと感じると思います。
例えば
本当は一人で勉強したいんですけど
友だちから「一緒にやろう」って言われると、それもいいかなって思って・・・それで、後から後悔するんです
後悔するのね
友だちに「今日は一人で勉強する」って言いづらいの?
はい。何となく・・・
そう〜、イメージだけど、
相手との空気を悪くしたくないから、言葉を口から出さずに、とりあえず呑み込むけど、後から後悔する感じ?
そうなんです!
空気を気にして、呑み込んでます
「言葉を呑み込む」は一般的な表現であり、大人のふるまいとしてポジティブなイメージがあるため、
児童生徒は受け容れやすいと思います。
(2)共通性の気づきにつながる
同じ【たとえ】を、複数の【対象】に使うと、
児童生徒の中で、それまで異なる課題と思われていたものが、
まとめられたり、結びつけられたりされやすくなります。
例えば
私は文系にしたいんですけど
親から「理系にしなさい」って言われて、モヤモヤと・・・
モヤモヤしてるのね
親には伝えたの?
言えなくて・・・
親の言うことも一理あるし
とりあえず呑み込んだのね
ただ、呑み込んだ言葉は、あなたの大切な想いだから
このままだと後悔するかもね
そうかもしれません
同じ【たとえ】(とりあえず呑み込む)を使うことによって、
空気を悪くしたくない(親と揉めたくない)から、自分の意思を言わない
という行動を、共通する課題として取り扱っています。
(3)ストーリーが展開する
その児童生徒にとって、
自分が抱える課題を上手く表していて、意味があると思えば、
メタファーのストーリーを展開していく場合があります。
例えば
親に「私は文系にしたい」と言ったら
とりあえず、それは分かってくれました
がんばったわねー!
ありがとうございます
呑み込める言葉と、呑み込めない言葉があるって思ったんです
今回は、呑み込めない言葉だったのね
はい、大きすぎました
メタファーに含まれている要素(例:呑み込む)が、
自分の課題に関する新しい理解、対処を考えるストーリーとして機能しています。
(4)語りやすくなる
メタファーによって、悩みそのものを語ることなく、理解や対処等を語ることができます。
それは児童生徒にとって、語りやすさを高めるものです。
例えば
腹鳴(ふくめい)恐怖の例
飼っている犬は、どういう時に鳴き声をあげるの?
空腹だと鳴くことが多いんです
だから、何かをお腹に入れるようにしています
現実には、犬ではなく、児童生徒が、お腹に何か入れています。
語りやすさに加えて、
このように語ることで、児童生徒の悩みに向き合う姿勢に「遊び」ができ、
悩みから距離をとって思考できるようになります。
これは心理臨床で「外在化(がいざいか)」と呼ばれるものです。
(5)暗示になっている
言葉にしなくても、【たとえ】に含まれる要素が、相手に影響することがあります。
例えば
息子が何を考えているのか、分からないんです
そうなんですね
思春期は、嵐の時期だから・・・さっきまで笑っていたと思ったら、突然怒り出したり、こころの中に様々な気持ちが吹き荒れていると言いますね
そういうものなんですね
お父様も、思春期は同じだったと思いますよ
忘れましたよ〜ww
嵐が去るのを待つしかないんですね
このメタファーには、
- 嵐なら、何を考えているか分からないのも自然
- 嵐は過ぎ去るもの
- 嵐は自然の脅威だから、誰にも抵抗できない
という要素があり、あえて言葉にしなくても、保護者は影響を受けて思考しています。
まとめ
- メタファーは、誰もが日常的に用いる表現方法であり、カウンセリングでも多用されている
- 人は言葉の影響を受けるため、メタファーを使うことで語りやすさを高める効果や暗示となる側面がある
- まずは、児童生徒がメタファーを使ったときに、それを活用しようと意識することで、
話の流れに新たな展開をつくることができる
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!