『やる気の心理学』について、数回のシリーズでお伝えしています。
「児童生徒の全員が、内発的動機づけで学習する」のは難しいので、
「外発的動機づけでも、主体的に学習するにはどうしたらよいか」を整理していきます。
やさしく解説!「やる気」を高める方法。2回目です。
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内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 内発的動機づけが低下するNG対応
内発的動機づけが低下するNG対応を2つ説明し、共通点から自己決定の重要性を考えます。
ご褒美の約束(NG対応1)
もともと意欲的に取り組んでいる状態(内発的動機づけ)に対して、
もっと意欲を高めようとして、報酬を与えることを提示すると(外発的動機づけ)、
報酬がなくなった後の内発的動機づけは低下します。
例えば
例1
自分から勉強するこどもに、「◯点を取ったら〇〇を買ってあげる」と約束する
例2
ピアノが好きな児童生徒に、「コンクールで入賞したら〇〇へ旅行しよう」と約束する
もともと意欲的に取り組んでいる場合のみ、影響します。
事前に約束していなければ、ご褒美を与えても、影響はありません。
そして、有形の報酬(金銭、物、賞状など)のみ、影響します。
ちなみに、無形の報酬(ほめ言葉)は、逆に、内発的動機づけを高めます
競争や順位づけの強調(NG対応2)
競争や順位づけを強調すると、内発的動機づけを低下させます。
理由は、自分に能力があることを、他者や自分自身に示すことに興味が向けられ、
緊張や不安が強くなり、活動自体への興味や集中力が低下するからだと考えられています。
2つの共通点は
児童生徒から「自分で行動を決定している感覚」を奪っている
- ご褒美の約束(NG対応1)は、”ご褒美があるから取り組んでいる” という文脈になる
- 競争や順位づけの強調(NG対応2)は、”能力があることを示すために取り組んでいる” という文脈になる
結果、”自分がやりたいからやっている” という文脈が弱くなります。
人には、自己決定したいという欲求があるため、
外の刺激によって自己決定している感覚を奪われると、楽しさ、おもしろさが低下してしまうのです。
人は、自己決定しているときに、
内発的動機づけが高まる
自己決定している感覚が奪われると、
内発的動機づけは低下する
次は、「外発的動機づけ」と「自己決定」の関係について、見てみましょう。
2 自己決定理論とは
本来は5つの理論を統合したものですが、
短くまとめると、
外発的動機づけを細分化すると
自分で決定している感覚(自律性)が高いほど、内発的動機づけに近い
図にすると、
④価値観レベルは、学習活動を対象とした研究で、内発的動機づけと1つになります
外発的動機づけの4つの段階
①から④へ徐々に「自分で決定している感覚」が高まり、内発的動機づけに近づいていきます。
専門的には「外的調整」と言います。
報酬の獲得や罰の回避などに基づく動機づけ
例「やりなさいと言われるから」
「成績が下がると、怒られるから」
専門的には「取り入れ的調整」と言います。
自己評価の維持、罰や恥の回避などに基づく動機づけ
例「周りの人にかしこいと思われたいから」
「友だちにバカにされたくないから」
専門的には「同一化的調整」と言います。
学習活動の必要性を認めている状態の動機づけ
例「自分の夢を実現したいから」
「希望する高校や大学に進みたいから」
専門的には「統合的調整」と言います。
学習活動が自分の価値観と一致している状態の動機づけ
例「問題を解くのがおもしろいから」
「挑戦するのが楽しいから」
学習成績と最も関係するのは、③必要性レベル
精神的健康と最も関係するのは、④価値観レベル( ≒ 内発的動機づけ) と言われています。
内発的動機づけだけでなく
外発的動機づけも
自分で決定している感覚(自律性)が高いほど、動機づけの「質」が高い
学習成績と最も関係のある「③必要性レベル」は、
「自分にとって必要だから取り組む」という動機づけです。
例えば
例1 練習は嫌いだけど、勝つために必要だからやる
例2 難しい勉強だけど、看護師になりたいから取り組む
例3 この学習は将来の役に立つので、しっかりと学ぶ
「内発的動機づけ」は、学習内容が難しくなり、興味が薄れてしまうと、取り組まなくなる可能性があります。
一方、「③必要性レベル」は、学習内容が難しくても、自分のために努力を続けることが期待できます。
加えて、目標に近づくためには、自分の達成度を確認する必要があるため、
「自己調整学習」に必要な「メタ認知」も、高めることになります。
3 自分で決定している感覚(自律性)を高める方法
自分で決定している感覚(自律性)を高めて、やる気を引き出す方法です。
(1)児童生徒が決定する機会をつくる
美術館に行くことは、ありますか?
「楽しみ方が分からない」「解釈が難しい」と退屈に感じる人も、多いようです。
『初心者でも美術館を楽しむ方法』があります。
それは「どれか1つの作品を購入して、自宅のどこに飾るか、選んで決める」という空想ゲームをすることです。
もちろん、一緒に行った仲間で、発表し合っても良いと思います。
これだけで、美術館が買い物のように、ワクワクしたものに変化します。
自分で決めるって、空想でもワクワクするものです。
学校では
例1
児童生徒に選択肢を示して、児童生徒が選んだ内容や方法で取り組む
学習活動に限らず、あらゆるかかわりで実施できます
例2
児童生徒が1人で考える時間を十分に作り、自分の考えを発表する機会を作る
自己決定には、環境と練習が必要です
例3
目標、活動のルール、当番などについて、児童生徒が話し合って決める
生徒指導でも自己指導能力を育むものとして、自己決定の機会が重視されています
児童生徒が「自分(たち)で決めた」と思う機会を増やすことで、
児童生徒は、自分(たち)で決めたものに、やる気をもって取り組みます。
(2)児童生徒の気持ちを尊重する
勉強しようと思っているときに、うちの人から「勉強しなさい」と言われると、反発したくなります。
「べつに、言われたから、やるわけじゃないからね!」と言いたくなるし、
それで勉強をやめるのも、影響を受けているように感じ、ムカムカするかもしれません。
自分で自分のことを決めている感覚を奪わないためには、
児童生徒の気持ちを尊重することが重要です。
学校では
例1
「〇〇しないでください」ではなく、「〇〇したい気持ちなんだね。でも今は△△しよう」と指導する
「支持→指示」の順で伝えると、児童生徒の気持ちを尊重できる
例2
「やり方を変えたら」ではなく、「がんばったよ!」「必要なことがあれば、力になるよ」と指導する
本人なりに取り組んでいる気持ちを尊重する
(3)学習の実用価値を伝える
「自分にとって必要だから取り組む」という状態になるためには、
その学習が個人の目標達成や日常生活に役立つこと(実用価値)を、理解する必要があります。
実用価値が内在化したとき、
学習活動に対して自分で決定している感覚(自律性)が高まり、やる気が湧いてきます。
例えば
例1
先生の体験談で、
「〇〇を学んでいるから、気づくこと/楽しめること」
「〇〇を学ばないと、損すること」を児童生徒に語る
例2
児童生徒の価値観(なりたい、やりたい、もちたい)について話を聞き
それを大切にして生きるには、学習が必要なことを説明する
まとめ
- 人は、自己決定しているときに、内発的動機づけが高まる
- 人は、自分で決定している感覚(自律性)が高いほど、外発的動機づけの「質」が高まる
- 児童生徒が「自分(たち)で決めた」と思う機会を増やすことが、やる気の向上につながる
「やる気スイッチ」は、自分で押す(自己決定)から「ON」になる
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