難しいことに挑戦する、粘り強く努力する、そんな児童生徒を育てたいと思いませんか?
「上手くできる」「やるだけやってみる」「どうせできない」など
思考によって、行動と結果が大きく変わるものです。
やさしく解説!「やる気」を高める方法、
3回目は、人の行動を予測する最も重要な概念、自己効力感です。
前回を読んでいない方はこちら
↓ ↓ ↓
内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。
このコラムは約3分で読めます。
1 自己効力感とは
セルフ・エフィカシー
自己(self)+ 効力(efficacy)
効力(efficacy)は、効果(effect:エフェクト)を及ぼすことができる力。
定義は
自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、
自分の可能性を認知していること
Albert Bandura(1977)
わかりづらいので、言い換えると
ある行動が「上手くできる」と
思うこと
「上手くできる」と思えば、人は行動する。
「上手くできない」と思えば、人は行動しない。
自己効力感は、自分の能力への信頼度 です。
効力期待と結果期待
勉強すれば学習成績が上がると分かっていても、やる気が出ない
練習すれば上達すると分かっていても、やる気が出ない など
必要な行動(勉強、練習など)が分かっていても、
「自分にはそれが上手くできそうにない」と思えば、やる気は出ないものです。
この思考を図にすると
ある行動を自分がやり遂げることができるという予想
ある行動が目的とする結果に至るという予想
「結果期待(勉強すれば学習成績が上がる)」があっても、
「効力期待(上手く勉強できる)」がなければ、行動は起こりづらい
自己効力感による行動の違い
自己効力感が高いと
- 困難な状況を、乗り越えるべき試練、挑戦するものとして捉える
- 取り組んでいる活動に、興味や関心をもち、長時間でも努力を続けられる
- 遅れを取っても、失敗しても、立ち直ることができる
- 目標達成のために、必要な助けを得ることができる
自己効力感が低いと
- 困難な課題を避け、難しいことは無理だと信じ込む
- 自分が置かれた状況を変えることはできないと思う
たとえ、同じ能力があっても
自分の能力を信じるか、
信じないかによって
行動と結果は大きく異なる
自己肯定感と何が違うのか?
自己肯定感(セルフ・エスティーム)は、自分の価値に関する感覚です。
自己効力感(セルフ・エフィカシー)は、自分がある行動をできるという感覚です。
例えば、
「借金の取り立て」が、上手くても(自己効力感が高くても)、
そんな自分に価値があると思うかは別です(自己肯定感が高いとは限らない)。
逆に、自分のことが好きでも(自己肯定感が高くても)、
「ダンスする」「発表する」などの行動が、上手くできると思うかは別です(自己効力感が高いとは限らない)。
自己効力感は、行動や能力 に関する思考のため、動機づけ(やる気)と深い関係があります。
2 自己効力感を高めるには
自己効力感は、生得的なものや自然発生的に生じるものではなく、獲得し高めていくものです。
そして、学校の先生は、その獲得に大きく寄与することができます。
(1)小さな成功体験を積み上げる
最も影響力があるのは、成功体験です。
体験によって「自分はできる」と学び、「また次もできるだろう」と考えやすくなります。
理想は、忍耐強い努力によって目標を達成する体験なのですが、
いきなり大きなものを目指すのは難しいので、スモールステップで進める必要があります。
スモールステップは、大きな目標や課題を達成するために、
小さなステップを設けて(目標を細かく分けて)、段階的に達成を目指すアプローチ方法です。
例えば
方法1
少しがんばればできることにチャレンジして、「できた」を体験する
(例:英単語を2つ覚える。確認を受け、がんばりを認められる)
方法2
徐々に、努力が必要な課題に挑戦して、「努力することができる」という体験を積み上げる
(例:覚える英単語を2、3、5、7、10個と増やす)
スモールステップの良さは
児童生徒を認める機会が作れることです
認められることが少ない児童生徒に、「やればできる」「自信をもって」って言っても、無理ですよね。
(2)他者の成功体験を見る
他者が何かを達成したり、成功したりする様子を見ることは、観察学習(モデリング)となり、
「自分もがんばれば、できるかも」と考えやすくなります。
観察学習(モデリング)とは、他者の行動を観察することで、新たな行動を学習するものです。
映像で、大人が人形に暴力をふるっている姿を、こどもに見せた結果、
見ていないこどもより、映像視聴後の攻撃行動が高まったという、有名な実験があります。
ちなみに、観察学習(モデリング)と自己効力感は、同じ人物(アルバート・バンデューラ)が提唱した理論です
モデルとなる他者は、自分と類似性が高いほど影響力があります。
例えば
方法1
目標を達成した人物について、できるだけ具体的に知る
(達成した姿を見る、体験談を聞く、先生から話を聞く など)
方法2
保護者等や学校の先生が、何かに挑戦したり、取り組んでいる姿を見る
(うちの人が読書や勉強をしている姿を見る など)
大谷翔平選手に憧れて、同じようになりたいと努力する児童生徒は多いことと思います。
(「校長先生からのお話」でも話題になることが多いのでは・・・)
成功してなくても、苦しい環境の中で、粘り強く取り組んでいる姿は良いモデルになると思います。
最近では、推しのアイドルが努力している姿から、生きる勇気を得ている人がたくさんいるようです。
(3)励ます・勇気づける
最も手軽な方法が、言葉による励ましです。
他者から、自分には力がある、達成の可能性があると言われると、
「できるかもしれない」という考えをもちやすくなります。
専門性や信憑性のある人からの言葉ほど、影響力があります。
学校の先生は、特に学習面で影響力のある存在だと考えられます。
例えば
方法1
「〇〇さんなら、できる!」「やってみよう!」など、ポジティブな声をかける
(言い切ることが大切です。気持ちが高揚すると自己効力感は高まります)
方法2
「挑戦の先は、成功か学びしかない」「始めれば半分できたようなもの」など、行動することの大切さを伝える
(加えて、学校は失敗する場所であることを、伝え続けたいものです)
ある児童生徒が、何かをきっかけに、自信をもつようになり、
前向きな行動が増えて、以前とは別人のようになった・・・という姿を、見たことがある先生は多いことと思います。
「こんなに変わるものなんだ〜」と驚くとともに、
「人っておもしろい」「教育っておもしろい」と感じ、児童生徒から学ぶ体験になります。
その児童生徒のペースで、「自分を信じる気持ち」を丁寧に育てたいものです。
第4回以降は、寒くなった頃に再開します。
次回は、別のテーマでお会いしましょう。
まとめ
- 自己効力感は、(ある行動を)上手くできると思うこと、自分の能力への信頼度
- 行動の必要性がわかっていても、「上手くできる」と思わなければ、やる気は出ない
- 自己効力感を高めるには、小さな成功体験を積み上げる、他者の成功体験を見る、励ます・勇気づける方法があり、
学校の先生は、自己効力感の獲得に大きく寄与することができる
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!