【心理的安全性】職員室から始める安全・安心な学校(前編)

このようなことはありませんか?

児童生徒への指導が上手くいかないけど、
『指導力が不足している』と思われそうで、他の先生に相談できなかった。

会議中、「これで本当に良いのだろうか?」と違和感をもったけど、
『忙しいんだから会議を長引かせないでくれよ』と思われそうで、何も言わなかった。

「心理的安全性」が高まれば、このような対人関係上のリスクが減少し、教職員の対話と協働が実現できます

内容が理解しやすいように、理論的背景を省略しています。
詳しく学びたい方は、最後に紹介している書籍を参照願います。

このコラムは約3分で読めます。

目次

1 心理的安全性とは

安心して発言できる職場

「心理的安全性」の定義は

チームの中で、対人関係上のリスクを伴う行動をとっても安全であるという信念が共有された状態

Edmondson, A. C. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44, 350-383.

難しい定義です・・・。

逆の「安全性が低い」を説明した方が分かりやすいと思います

例えば

例1
これはいじめなのか質問したいけど、『そんなことも知らないの?』と思われそうで質問できない

例2
保護者から間違いを指摘される事案があったけど、『できない先生』と思われそうで報告しづらい

例3
学年の会議で「この指導方針で大丈夫かな?」と思ったけど、『いつも否定する先生』と嫌われそうだから黙っている

例4
新しい取組を考えたけど、『あの先生のせいで、仕事が増える』と思われそうだから提案できていない

これらの不安(対人関係上のリスク)がなくなり、安心して発言できる状態を「心理的安全性」と言います

上記に対応させると

例1「ちょっと分からないので、教えてもらえますか?」

例2「すみません。報告したいことがあります。先ほど・・・」

例3「心配なことがあるのですが・・・」

例4「やってみたいことがあるのですが・・・」

このような素直な意見、素朴な質問が言える/聞こえてくる職場なら、教職員の対話が増え、より協働できるのではないでしょうか。

役職があったり、実績・経験が十分なら、言いやすいかもしれません(それでも気を遣いますけど)。

逆に、初任者、新任者にとっては、とても言いづらいことだと思います。これは誰もが経験していることですね。

どのような不安を抱くのか、4つの分類を見てみましょう。

4つの不安が、必要な発言を阻害する

不安
「無知」だと思われる不安

他の先生が当たり前に知っていることを質問したら、無知な人だと思われる

必要なことでも質問できず、よく分からないまま仕事を進める

不安
「無能」だと思われる不安

児童生徒の指導上の問題を報告したら、指導力が不足していると思われる

ミスを隠したり、相談できなかったり、大きなトラブルにつながる

不安
「ネガティブ」だと思われる不安

同僚の授業や指導について、問題点や疑問点を指摘したら、煙たがられる

これまでの教育活動を批判し、改善を提案すると、反抗的な教員だと思われる

議論を避け、重要な指摘ができず、組織としての成長が低下する
すべての校種に強くみられる不安で、特に中学校、高等学校が強い(三沢・鎌田、2022)

不安
「邪魔をする人」だと思われる不安

職員会議で自分の意見を発言すると、時間を長引かせるうとましい人だと思われる

学校改善・授業改善のための新しい提案を行うと、押しつけがましい人と思われる

自発的な発言を控え、新しいアイディアを言えない
小学校の先生に強くみられる不安(三沢・鎌田、2022)

教職員を対象とした研究(三沢・鎌田、2022)では、「無知」と「無能」、「ネガティブ」と「邪魔をする人」に強い相関がみられています。

2 心理的安全なチームの成果

「心理的安全性」は、Googleの調査によって注目されるようになりました。

Googleは、2012年にプロジェクト・アリストテレスを立ち上げ、4年かけて、「効率的なチームは、どのようなチームか」を調査・分析しました。

結果、重要なのは「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」と分かりました。

そして、さまざまな協力の仕方があるなかで、圧倒的に重要なのが「心理的安全性」であり、離職率が低く収益性が高いと結論づけました。

他の研究結果では、ビジネスにおいて、業績向上に寄与する、意思決定の質が上がる、情報・知識が共有されやすいと報告されています。

また、医療現場の研究では、「心理的安全」なチームは技術の習熟が早く、手術の成功率が高いという成果が示されています。

このような結果もあり、近年、教育現場においても「心理的安全性」が注目されています

3 心理的安全性をつくる(前編)

4つの不安を減らすという視点から、

前編は、「無知」「無能」だと思われる不安を減らす、「具体的な声かけ」をお伝えします

「ネガティブ」「邪魔をする人」は、後編となります。

(0)基礎となる日常的コミュニケーション

「具体的な声かけ」の前に、日常的コミュニケーションの確認です。

  • 挨拶する 「〇〇先生、おはようございます」
  • 雑談する 「前任校では・・・」「好きな食べ物って・・・」
  • 感謝する 「ありがとうございます」
  • 責めない 「気にしないでください」
  • 話を聴く 「そうなんですね~」

「ホウレンソウ(報連相)」より
「ザッソウ(雑相)」を重視
雑談+相談 で小さなことから情報共有

このようなコミュニケーションが基礎として必要です。

では、「具体的な声かけ」について見てみましょう。

(1)きっかけとなる声かけ

「質問」「相談」を引き出すために

初任者、新任者に対して

最初は「質問するのが仕事」って感じなので、遠慮しない聞いてくださいね
(リフレーミング)

「分からないことが分からない」ってなりますよね
私もそうでした
(自己開示)

相談していいか分からないときは、
「相談していいか分からない」ことを相談してください
(リフレーミング)

徹底的に質問と相談のハードルを下げる

仕事を抱えていそうな教職員に対して

たくさんの仕事に対応されていますよね
何かストップしている仕事ってありますか?
(ねぎらい)

お忙しいですね
何かお手伝いできることってありますか?
(協力を申し出る)

「大丈夫?」以外の声かけをする

疲れた顔をしている教職員に対して

何かありますか?
(オープン・クエスチョン)

浮かない顔に見えますよ
どうしました?
(アイ・メッセージ)

仕事に追われてばかりで、疲れますね
体調とか崩していませんか?
(体調を心配する)

短い言葉で声をかけて、愚痴を引き出す

徹底的に質問と相談のハードルを下げる
ねぎらいの言葉から愚痴を引き出し、
抱え込みを解消する

(2)おかえしの言葉

「質問」「相談」を受けたあと、安全性を高めるために

ミスを報告した教職員に対して

すぐに報告していただき、本当に助かります
(感謝する)

早く分かってよかった。遅かったら大変でしたね~
(リフレーミング)

困ったときはお互い様ですよ。一緒に保護者に会いましょう
(一緒に取り組む)

過ぎたことより、これからの解決に力を入れる

業務内容について質問した教職員に対して

確認していただき、ありがとうございます
私の伝え方が不十分でしたね
(感謝する)

一度の説明で分かるわけがないと考える

素朴な質問をした教職員に対して

同じように疑問に思う人って、多いと思います
(ノーマライズ)

話していたら、私の頭の整理になりました
(リフレーミング)

トラブルを報告した教職員に対して

教えていただき、ありがとうございます
状況がよく分かりました
(感謝する)

ピンチはチャンスですから、この機会によく話し合いましょう
(リフレーミング)

悪いことほど、早く報告した方がいいんですよ
管理職にすぐ報告しましょう、私も行きます
(一緒に取り組む)

突然、休暇をとる教職員に対して

ゆっくり休んでください
(休むことに罪悪感を持たせない)

家族が一番大切です
(プライベートを重視する)

そもそも権利を行使して、罪悪感を持つ必要はない

ミスやトラブルは、個人を責めず、
学習の機会と捉える

分からないこと、苦手なことは
誰にだってある

前編のまとめ

  • 「心理的安全性」のあるチームは、成果をあげている
  • この4つの不安が、必要な発言を阻害する
    「無知」「無能」「ネガティブ」「邪魔をする人」と思われる不安
  • 「心理的安全性」をつくるためには、基礎となるコミュニケーションに加え、
    質問や相談のきっかけとなる声かけ、質問や相談を受けたあとの言葉が有効と考えられる

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